韓の俳諧 (40) 文学博士 本郷民男
─ 忘れられた朝鮮公論① ─
植民地時代の韓半島での俳句を調べた先人は、『京城日報』や『ホトトギス』を基本資料としてきました。雑誌『朝鮮公論』を高麗大の巖仁卿(オムインギョン)教授が380冊発行された総合誌として挙げているものの、俳句の研究から抜けていました。『朝鮮公論』の創刊は大正2年(1913)4月です。面白いのは発行所が東京市京橋区の朝鮮公論社で、総支社が京城にありました。編集も印刷も東京で行っていて定価は25錢です。末尾に「投書歓迎 漢詩、新体詩、和歌、俳句…」等とあって、文芸誌の性格を持っていました。2年6月号に、早くも64句の俳句が載りました。
初袷
若がへる心もしたり初袷 蘆月
袷着て雪駄辷らす女学生 蘆汀
今年よりアゲを下ろして初袷 白雪
若葉
山腹の舊き祠や藤若葉 蘆声
若葉して昼なほ蚊鳴く社かな 凉我
明け空の月は残りて峯若葉 蝸牛
心太
麓なる瀧見の茶屋や心太 白濵
さなきだに歯ごたへも有り心太 蘆月
坂一つ越せば必ず心太 蘆汀
大正2年は他に9月号で雲の峰の10人10句だけ載りました。しかし、大正3年の5月から、様子が違ってきました。
◎楽俳十章 青木静軒 5月号
摘草
摘草に邪魔ひろげたる太郎かな
摘草や粋な姉サン冠りして
田螺
鰌隅々田螺の閑居襲ひけり
楽俳に安んずる身を田螺掘り
◎倭上臺上の花 青木静軒 6月号
花に明けて花に暮るる廬の詩趣哉
緑泉の水や流れて花の谿
◎公論俳壇新設 6月号
課題 螢。打水 6月15日締切 7月号
蚊。雲の峰 7月15日締切 8月号
賞 天地人には発表の本誌呈上
5月号、6月号は青木静軒の独演会、といっても「天保調」の俳句です。6月から選者になりました。青木静軒は明治10年(1877)に東京郊外で生まれた青木作太郎です。大正13年の『大正俳家伝』に「久しく朝鮮に在り、大正7年官途を退きて実業界に入り、大正11年東京府西多摩郡多西村原小宮に帰住し、助役たり」とあります。明治22年の統計で戸数30、人口180という原小宮村に生まれ、帰ってから原小宮の助役になりました。今のあきる野市で市役所の北東に原小宮という地名が残っています。
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