日本酒のこと  (33)                     安 原 敬 裕

「日本酒の海外進出」

 日本酒が海外の世界各国で大きな関心を呼び、日本の酒蔵も海外市場の開拓に力を入れているとのニュースを耳にする機会が増えてきました。現に、日本酒の海外への輸出は年々盛んになっており、最近では数量ベースで対前年を50%も上回る勢いで増加してきています。
 その最大の理由は寿司を筆頭とする世界的な日本食ブームの広がりにあります。日本食を美味しく味わうには日本酒がベストという自然な流れのなかで日本酒が飲まれるようになりました。そして、良質な日本酒は高級ワイン並みの香味を持つことが認識されるようになり、和食以外の例えばフランス料理等とのマリアージュという面からも日本酒の評価が高まってきているのです。
 輸出先としては、米国や韓国、台湾、中国等のアジア勢が上位を占めており、これにフランスやイギリスが続いています。その銘柄を見ると、「白鶴「月桂冠」「大関」等の灘や伏見の大手の酒造会社が上位を占め、山口県の「獺祭」がそれに追随しています。一方、全国に数多ある有名地酒は大手の後塵を拝しているというのが実態です。理由は地酒の知名度の低さにあります。勿論、資本力や営業力の格差もありますが、大手酒造会社は他に先駆けて営業活動を展開してきたという実績に裏付けられた知名度の高さがあるのです。
 さて、全国の地酒の蔵が日本国内において知名度アップに活用したのが全国新酒鑑評会です。この種のワインや日本酒等のコンテストは、今や米国やイギリス、フランス等の諸外国でも盛んに開催されるようになっており、日本の有名地酒の蔵も積極的に出品し高評価を得てきています。つまり、海外におけるお酒のコンテストで入賞することで知名度を上げると同時に、同業者が協力しあい国や自治体と一体となって販路を拡げていくということが、中小の酒蔵の経営戦略となっています。
 ところで、今や海外で飲まれる日本酒には、その海外で醸造されるものも年々増えてきており、その酒蔵の数は60を超えているとのことです。大手酒造会社は今から40年以上も前から米国等での現地製造を開始しています。また最近では、例えばニューヨークの「ブルックリン・クラ」における新潟県の「八海山」の他、「獺祭」をはじめ日本の酒蔵が現地資本とジョイントするケースが増えてきています。また、酒造米も日本からの輸入に加えて海外生産も盛んになっています。
 国内での需要が減少する中で、海外市場は日本酒のフロンティアです。輸出の急増とはいえ、それは全体の生産量のわずか8%程に過ぎず、まだまだ大きな伸び代があります。海外の酒蔵とも競争しながら、もっともっと美味な日本酒の世界が展開されることを期待しています。
酒場出てすぐ海の香や星月夜皆川盤水