「雨読集」4月号 感想                        児玉真知子

響き合ふ太き船笛去年今年秋山淳一

 去年今年は、大晦日の夜から元旦にかけて年の交替の速やかなこと。今年がたちまち去年となってかなたへ流れ去り、来年はたちまち今年となってあらわれる。
「去年今年」はそうした時の流れの深い感慨を表現したものであろう。
 この句は停泊中の船舶が、新年を祝うために大晦日から元旦にかけて、漆黒の闇に一斉に力強く船笛を響かせている。忽ち年が去り、新しい年を迎える頼もしい決意が感じられる。

人住まぬ家にも朝や寒椿宇井千恵子

 古くて空き家になっているのか、人の気配が感じられない。しかしながら家の外観から家族の人数や間取りは様々に想像できるところである。ただ気になるのが、家の歴史を共にしてきた鮮やかな紅の色を見せて咲いている寒椿。時は流れ、朝はまためぐってくるという、何かしら希望を感じさせてくれる心に残る句である。

賀状来て現世の匂ひかぐ如し大石英子

 年賀状は普段連絡を取らない人の近況を知れたり、自分の状況を伝えたりできるツールの一つですが、近年はネットの普及により簡単にやり取りができるようになって、年賀状の必要性が薄れてきているようです。
 毎年、作者は年賀状のやり取りを楽しみにしている。元旦にゆっくりと賀状を読むのは、今年も無事に正月を祝う事ができたという、幸せの実感が「現世の匂ひ」で見事に表現されている。

神木の洞に日の差す初景色小島利子

 初景色は新年に見る風景、日頃のありふれた景色でも情趣が深い。毎年、初詣に行っている神社でしょうか。神木は境内や神域にあり、神聖視される樹木に注連を張ったり、柵をめぐらしたりして標示して崇められている。初景色の神木は、瑞々しく厳かな淑気に満ちている。
その洞に日が差して命を吹き込まれているかに感じている素直な写生句であり、季語が効果的である。

受け渡す初湯の赤子湯気まみれ佐藤利明

 新年初めて赤子を風呂に入れた時の微笑ましい和やかな情景が浮かんでくる。湯気まみれの赤子をタオルにくるみ手渡す時の緊張感や、やわらかな温もり、石鹸の香まで想像させる。臭覚、視覚、触覚などから新年の目出度さが伝わってくる。

一畝の土を盛り上げ葱囲ふ清水伊代乃

 家庭菜園で多くの種類の野菜を楽しみながら育てている。特に葱の旬は冬で鍋物には欠かせない。その他汁の具、薬味にと一年中重宝する。葱は深く掘って土を盛り上げる一畝が効果的。保存のために葱を囲って浅くいけて置き、いつでもすぐに使えるようにしているまめまめしい作者である。

草の色鍋にふくらむ七日粥布谷洋子

 正月七日の朝、七草の若菜を入れた粥を食べると万病を防ぎ、一年の邪気を払うとされている。1月7日は年の最初の五節句で「人日の節句」と呼ばれている。陽暦の採用によってひと月ほど早まって若菜は芽を出していないので、人工的に育てた若菜を買って粥を炊いている。七草にはさまざまな効用があり、粥は正月料理で疲れた胃を休めるとともに、青葉の少ない冬のビタミン補給として伝わっている。
 この句は、家族の健康を祈って台所に立つ主婦の感覚で、七日粥を丁寧に描写している。粥の新鮮な色と、明るい正月の情景である。

大寒の風きりきりと枝を研ぐ林あきの

 大寒は、読んで字のごとく一年中で一番寒さが厳しい時期である。寒さが頬を刺すように感じ、夜空の星が冴え冴えと輝いて見える頃でもある。立春までの15日間が大寒の候となる。寒い中にも明るさがあり空は青く深い。
 この句の中七「風きりきりと」は身が引き締まるような繊細な感性が感じられる。一気に詠みあげて、下五できっぱりと言い切り潔い句に仕上がっている。