晴耕集秀句

思ひきり水吐き出して浮いてこい池内けい吾炎天のこの坂虚子も喘ぎしか伊藤伊那男
白雲のかがやき生る今朝の秋山田春生
ゆるやかな起承転結秋の蟬蟇目良雨
祖母のゐて父母ゐて宵の地蔵盆石鍋みさ代
西馬音内きたかさつさと盆踊阿部月山子
盆果てのまだ濡れてゐる臼と杵山城やえ
梅雨明けや今朝一番のさらの空柚口満
新涼やこの世の隅に喪服吊る岩田諒
鬼やんまきらりと風を乗り替ふる奈良英子

雨読集秀句

発車まで毟るズボンのゐのこづち柿谷妙子
朝顔の紺にはじまるひと日かな後藤紀美
大文字起筆正しく始まりぬ坂崎茂る子
頬杖のうしろ秋風来てゐたり佐藤さき子
月今宵差し潮匂ふ小名木川杉原功一郎
をみなごの仕舞爽けし能舞台仲川康子
歪なるを身上として榠樝の実永野紀子
書の筆の末のかすれや秋旱布谷洋子
夕闇を引き寄せてぎす声しぼる藤田壽穂
蔵王嶺の風に漕ぎだす黄釣舟若木映子

耕人集秀句

天上の夫はいづこよ夜這星山本由芙子
大旱我田引水てふことば林美沙子
かぶりつくトマト丸ごと日の匂ひ和田洋子
茸狩山気まとひて爺帰る佐藤勇
千年の榧の木の実のいと小さき伊藤克子
なだれ咲く萩揺らす風こぼす風菊地惠子
雨降るも渾身の声秋の蟬山田えつ子
初秋の風に誘はれ父逝きぬ髙橋喜子
夜濯ぎの捨て水闇を動かしぬ鳥羽サチイ
天命の声を尽くして秋の蟬仲間文子