今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2018年4月号 (会員作品)

草よりも低き火走る野焼かな濱中和敏
着水の音をひとつに番鴨山田えつ子
書初の筆いさぎよく運びけり山本聖子
荒波を越えし兄の忌寒四郎八木岡博江
十巻の写経を納め寒明くる辰巳陽子

鑑賞の手引き    蟇目良雨

   草よりも低き火走る野焼かな
野焼の、天にも届く火勢ばかりに目を向けるのでなく地を這う火に着目したことが成功。草の丈よりも低い野火はやがて育って天にまで届くのだ。

 着水の音をひとつに番鴨 
番の鴨が池に戻ってきて着水音がひとつであったことから仲の良い夫婦の鴨だなあと感心している作者がいる。着水音に耳を澄ませて得られた秀句。

 書初の筆いさぎよく運びけり
書初らしく迷わずに思い切り書き始めたところが気持ちがよい。

 荒波を越えし兄の忌寒四郎
寒に入って四日目が寒四郎。この日を忌日にされている兄上の生涯を「荒波を越えし」と表現。さぞかしドラマのようであったことだろう。

 十巻の写経を納め寒明くる
十巻ともなれば相当の分量の経を書かれたことだろう。納めたあとに春が巡ってきた喜びが溢れる句。

写生句なら深く写生すること。人事句なら具体的なものからイメージが膨らむように。