今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2020年10月号 (会員作品)

城垣の疎らに破れて竹煮草小島利子

赤き月昇りて長き梅雨明けぬ桑島三枝子

時鳥鳴くよホンデンカケタカと谷内田竹子

不条理といふ詩に出合ふ太宰の忌髙村潔

なまぬるき東京の風遠花火雨森廣光

熱帯夜兄となる子の相手して山本由芙子

日の盛介護士きりと髪縛る佐藤和子

 

鑑賞の手引 蟇目良雨

城垣の疎らに破れて竹煮草
 城垣の所どころ破れて土の見えるあたりに竹煮草が繁茂して覆い隠している。城破れて草木深し。薬草にもなる竹煮草を配置し如何にも古い山城を思わせる作品になった。

赤き月昇りて長き梅雨明けぬ
 白い月、黄色い月は見るが赤い月は珍しい。よほど稀な気象条件が重なった時に出現するのだろう。長い梅雨が明けたという特別な条件があったのだろう。注意深く観察する態度がこの句を得た。

時鳥鳴くよホンデンカケタカと
 ホトトギスの聞きなしは「特許許可局」が一番相応しいと思うが、「天辺翔けた」、「本尊建てたか」なども地方によっては聞きなすのであろう。作者の長岡のあたりでは「本伝書けたか」と聞きなして仕事を督励しているようだ。

不条理といふ詩に出合ふ太宰の忌
 太宰忌に読んだ詩集に不条理に満ちた詩があったのだろう。太宰の死は、自殺癖を見透かされたために純粋な女性に誘惑された節がありこれも不条理な出来事であった。

なまぬるき東京の風遠花火
 「なまぬるき東京の風」が東京というものをよく認識した言葉だと思う。東京はどこにいても生ぬるい風が吹いている。

熱帯夜兄となる子の相手して
 家庭の様子が手に取るように分かる句だ。本来なら吾子俳句になるがこの場合おばあちゃんが孫の世話をしている。弟か妹が生まれる前の母の不在の不安感にある子を宥めて夜中になってしまったと物語は出来た。

日の盛介護士きりと髪縛る 
夏の真っ盛りの介護士の覚悟を表している。髪をきりっと縛ったことで自ずから介護士の覚悟が現れる。