今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2020年8月号 (会員作品)

竹の子の伸びて少年変声期内田節子
時計草揺れて垣根を明るうす辰巳陽子
誕生日ふつくら光る豆御飯宮沼あつ子
無住寺の枢の軋み夏落葉日置祥子
送られる言葉も無くて卒業す寒河江靖子

鑑賞の手引 蟇目良雨

竹の子の伸びて少年変声期
竹の子と子供の変声期には何の関係もないが、成長期というところに共通点がある。こうした僅かの関係を頼りに二物を組合わせると詩が生まれるという好例。

時計草揺れて垣根を明るうす
鉢植えの時計草なのだろう。小さい花ながら個性が強い花だ。風に揺れてさらに存在感を増す。垣根もそれにつられて生き生きと見える瞬間を詠った。

誕生日ふつくら光る豆御飯
誰かの誕生日に焚いた豆御飯がふっくらと光って見えたことだけで一句が成った。生活の中にささやかな美を見出して成功した句。

無住寺の枢の軋み夏落葉
枢(くるる)は観音開きの扉の回転軸のこと。無住寺ながら地元の方が開け閉めをして守っているのだろう。風が吹くたびに扉が軋み、夏落葉が飛んで来ている作者の身近の光景が句になった。

送られる言葉も無くて卒業す
時代の影響により卒業式が行われないことはしばしばある。この句は今のコロナ禍のことだろう。従来のような大勢で卒業生を送ることが出来なくなった子供への共感。儀式は必要だが真心があれば送る言葉になっているはずだ。