今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2023年8月号 (会員作品)

狛犬へ一太刀浴びせ杉落葉小島利子
 神社の境内に狛犬がある。狛犬に新葉に変わったばかりの後の杉落葉が落ちている。問題は「一太刀浴びせ」である。はらはらと杉落葉が降りかかるのでなく枝状のものが落ちて来た光景に出くわしたのだろう。我慢強く観察する内にこの瞬間に出会えたのだと思う。

自転車の乗捨てられしひめぢよをん弾塚直子
 姫女苑は可憐な花ながら愛でられている感じがしない。繁殖力が旺盛で何処にでも蔓延って咲くからだろうか。空地が出来ると早速姫女菀が咲く。そして昔は高価で大切にされた自転車が乗り捨てられている現代の世相。

竹の子の竹となる子となれぬ子と斉藤房子
 竹の子がそのまま伸びて今年竹になるものと、筍として折られてしまうものを描いた句。作者のものを見る目の優しさが思われる。子育ての体験などから思いが至ったのかと推察した。

夕されば流れにまかせ囮鮎小林美智子
 鮎の友釣りは囮鮎が縄張り侵入したと認知させるので水中でよく見えることが大切で、夕方になり水中が暗くなり始めると鮎の闘争心も弱まってしまうと理屈で言えばそれまでのこと。鮎釣りの夕暮を描き水中まで見えるような描きかたが素晴らしい。

青田見て思ほゆ暴れ木曾三川山下善
 濃尾平野の大青田を見ながら暴れ川であった過去の木曾三川を思い出している。時代を貫通した大きな句作りになっている。異状気象が続く現代への警告とも取れる。

わんぱくの葉は破れたり柏餅齊藤俊夫
 柏餅の葉を剝く時に思うのは、餅の出来に依って綺麗に剝ける時と剝けない時がある。元気な腕白の子が剝く時はどうかと見ていると、早々と破れてしまったようだ。早く食べたいという子供の気迫に押されてだと納得している作者。

思ひ出も広げて風に更衣高瀬栄子
 軽やかな夏の衣装には様々な思い出がある。心地よい風が思い出を実感させてくれる。言葉の配置が大変誌的である。

風死すや水田にかぶとえび繁る島村若子
 水田に兜えびを飼っている様子を1句にした。よく動く兜えびは泥を始終立てるので雑草の繁殖を妨げる効果があるという。風が死んだ炎昼ながら水面を波立たせている兜えびの旺盛な力に感動した。

その他佳句

桃の実のまだ葉の色を抜け出せず岩波幸
夕立のあとに飛びだす鳩時計青木典子
小流れに休むを知らぬあめんぼう原精一