今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2025年4月号 (会員作品)

多摩川や晴れて百羽の鴨の陣青木民子

 気持の良い句である。快晴の多摩川に100羽の鴨が陣を敷いているという光景だ。俳句では数詞が重要な役割をする。この句では100羽が適当かどうかである。大きな湖沼なら1000羽もの鴨の陣が見られる。多摩川の川幅を考えたら100羽は妥当だと私は思った。

五能線海荒れ風吼え雪しまく加藤くるみ

 秋田から青森を結ぶ五能線の吹雪の景色。日本海すれすれに線路が通っている。吹雪で海が荒れた時は風までが吼えているように聞える。畳みかけるような表現が五能線沿線の人々が厳しい冬を過ごしていることへの作者の共感の表れであると思った。

故郷の母にも届け冬青空鈴木さつき

 西高東低の冬型の天気は太平洋側に晴天を日本海側に雪空をもたらす。作者の現住地の快晴続きを故郷の母に分けて上げたいという気持ちがこの句を生んだ。太平洋側は晴れ過ぎて雨が降らず、三陸では山火事の大被害が発生してしまった。自然は人間の手に負えないものである。夕影を一気に含む雪の原小杉和子
 含むは「ふふむ」と読みたい。雪原の単調な景色は夕影を一気にとりこんんでしまうと作者は見たのだろう。時間を追っての暮色の変化が無くあっという間に暮れてしまったというのが句意である。冬の夕暮の迅さもそうだが、雪の原ではさらに早く暮れることを実感したのである。

裏町を帽子目深に多喜二の忌阿萬旅人

 多喜二の忌の句としては穏やかに表現しているが、既に死後100年近く経っている現代では過激に表現しても共感が得られないだろう。裏町を誰かの眼から逃れるように歩いて多喜二を偲んだと解釈した。何気ない雰囲気の世の中に「新しい戦前」が漂っている世相を感じたのかも知れない。

水音の高き方へと梅探る居相みな子

 探梅の句としては上々である。川沿いに梅を探る時に上流の水音の高い方を目指して行くのはごく自然であると思う。より新鮮な梅の花を求める作者の気高さを感じた。

一片の雲なき高嶺破魔矢受く日置祥子

 産土の鎮守さまへの初詣風景。いつも見上げる高嶺に一片の雲もない上天気の初詣だ。持ち帰る破魔矢も誇らしい。作者のご住所からすると阿夫利嶺を見上げているのだろう。

気持ち良く投げとばされし初稽古森戸美惠子

 試合ではなく初稽古なので型を重んじたやり取りが続いたのだろう。そして決めの時は気持ちよく投げ飛ばされて初稽古は終る。

垣の蛇行途切れて寒桜小林隆子

 寒桜を尋ねてのひとこま。真冬の荒涼とした山野に咲く寒桜を石垣沿いに辿って行ったのだがその石垣が途切れたところに見つけて安堵する作者が居る。体験が句に力を添えている。

薄氷の風紋ひかりはなさざる佐藤和子

 前夜から風が強く吹き、夜中に氷り始めた薄氷の表面に風紋が生じた。その風紋は紋様を誇るように光り続けている。薄氷の例句に新たな一句が加わったと思う。