韓の俳諧 (32) 文学博士 本郷民男
─ 雑誌『朝鮮』の募集俳句 ─
明治41年(1908)に創刊の雑誌『朝鮮』にも、募集俳句の欄がありました。3号(5月号)の巻末に、次のように記載されています。
俳句募集(オンドル会同人選)
行春 四号課題 5月10日締切
若葉 五号課題 6月10日締切
天の句 三円の図書券 地の句 二円の図書券 人の句 一円の図書券
オンドル会は前回に説明したように、京城に住む牛人や目池を中心とする句会です。たぶん5月1日に発行した三号で課題句を募集し、10日に締め切り、次の号には入選句を掲載という、猛スピードです。『朝鮮日報』は1冊20錢で、賞金が円単位でした。
行春 募集俳句(四号 41年6月号)
選外佳句 六人 朝鮮一部進呈(省略)
入選の句 図書券 一円
山鳴くや春行く空の薄曇り 直子
四五枚の画稿に春を惜しみけり 白猪
逆に見る日記暮春の灯かな 千代子
春旱遂に九旬は暮れにけり 柳園
城壁に鶏追ひ上がる暮春かな 才涯
才涯 京城 島田藤太
柳園 全羅北道 青木叔夫
千代子 仁川
白猪 旅順 山口白猪
締切まで短いため天地人を選べず、代わりに入選5人を選びました。行春なのに、暮春や春惜しむの句も採っています。とにかく早いのは、江戸時代の月並俳諧の伝統です。
月の初めに募集してすぐ締め切り、返し草という入選作品集を月末までには出し、翌月の兼題も書いてあります。返し草は木版一枚の一枚摺が普通です。文字が浮き出る陽刻で彫ります。明治時代は木版印刷の月並俳諧を、活字印刷の雑誌や新聞が駆逐する時代でもありました。
若葉 募集俳句(五号 41年7月号)
人 つづら折といふ二里遠き若葉哉 晩影
地 城壁を越すに若葉や枝を踏む 巴字盞
天 温泉の旗をからゝ上る若葉哉 岡の門
岡の門 大阪 岡本芳次
巴字盞 京城 三吉野猪之吉
晩影 龍山 白砂暁影
61人で569句の応募があった中から選ばれました。四号もそうですが、上位入選者の住所と本名が書かれています。外国に住んでいた俳人というと、よほど活躍した人しかわかりませんが、こうした記述で名前がわかるのは貴重です。大阪の人の投句はいかにもありそうです。四号の旅順には驚きます。明治37、38年の日露戦争の激戦地です。
明治39年には中国修学旅行として、学生の団体が旅順や大連を観光しました。仁川から大連への航路が開かれ、旅順間の郵送は、何とか可能だったようです。私は、旅順要塞のトーチカ跡を見たことがあります。
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