韓の俳諧 (13)                           文学博士 本郷民男
─ 飛び石が橋に ─

 9回の「韓の発句を掘り出す」で、『四海句双紙』四編に、「朝鮮 卒翁」の
竹うゑてとどくかや世の人も
『鶯宿雑記』の214巻に朝鮮人の発句
樽こけて海の満くる汐干かな
白雨やすぐはひかかる雲の群
が書かれていると書きました。それを見た前浜坂先人記念館館長の岡部良一氏から、それぞれ次のように読めるとご教示を頂きました。
竹うゑて酒そそぐかや世の人も
樽こけて海の停たる汐干かな
白雨やつくばにかかる雲の帯
 また作者も「平翁」と「菜若」であると。
 最初の句で一字読めないのが、「酒」でした。下戸で酒という文字には、歯が立ちませんでした。その次の仮名を「登(と)」と思ったのですが、「楚(そ)」でした。『四海句双紙』は国会図書館の古典籍室で見せてもらい、複写や写真が禁止なので、帳面に鉛筆で写しました。
 ところが岡部氏から、国文学研究資料館の新日本古典籍総合データベースで読めると教えて頂きました。これで検索すると、弘前市立図書館が出て、「書誌詳細」と「画像」とあります。画像をクリックし、45コマを見ると、問題の箇所を読めます。
 後者は私もインターネットで見つけたように、鶯宿雑記、朝鮮人、発句と入れると、国会図書館のデジタル画面にすぐ飛びます。その55コマです。次の句の「満」は、全くの間違いでした。さすがの岡部氏も、「傷」、「縞」と悩んで「停」とされました。
 最後の句で「寸(す)」と思ったのは「徒(つ)」で、「帯」は、そう言われてやっとわかりました。
 2番目で「海の停たる」は、どんな意味なのか検討が必要です。最後の句は筑波山に雲の帯がかかっているとあり、朝鮮通信使の経験を思わせます。1636年、1643年、1655年には日光までも行きました。
 解読には辞典のほか、東京大学史料編纂所の「電子くずし字字典データベース」も使えるようになりました。「酒」として検索するといろんな書体の「酒」が出てきます。派生したデータベースの「文字蔵」に、文字の画像を入力すれば、読みを教えてくれます。しかし、文字を写して送るスマートフォンが使えないとだめですね。私は不格好フォンにしがみついていて、スマートフォンのシャッター押しを頼まれると逃亡します。
 お金さえだせば、凸版印刷の「高精度CR全文テキスト化サービス」で、古典籍を機械が読み取って解読し、活字のテキストにしてくれます。たとえば、昔の地震に関する記録を地震学者が直接読むのは不可能に近いですが、このサービスを使うと一挙に解決します。
 私の読みは怪しげな飛び石でしたが、それを捨て石にして橋をかけて頂きました。古い俳諧資料は、いろいろ眠っています。