はいかい漫遊漫歩 松谷富彦
(146)続「駄句、この粋と恥」
“腰巻”のキャッチ・コピー“日本はじめてのC級句集”『駄句だくさん』(山藤章二・駄句駄句会編 講談社刊)の搭載句のツッコミ大合評から引き続き抜き書きで紹介する。
元カノと再会の雑炊還暦後
三魔(宗匠 山藤章二) 沈黙の陳平さん、待望の処女作でーす。
駄郎(吉川潮 作家・演芸評論家) 待ってました!
粕利(橘右橘 寄席文字書家) 出ましたねぇ、「元カノ」が(笑)
野ざらし(野末陳平 元参議院議員・中国文学者) 還暦後に会うんだから「元カノ」だって年は分かるだろ。久しぶりに会ったんだよ。
中瀞(林家たい平 噺家) ふつう元カノと会うときは、高級ホテルのラウンジとかバーみたいな所なんですけど。まず雰囲気づくりが大事だから。
野ざらし 80歳と80歳だからいきなり雑炊になるんだよ(笑)
斜断鬼(立川左談次 噺家)「元カノ」って、これ、人間なんですか?(爆笑)
ステテコとステテコがさすヘボ将棋
三魔 縁台将棋。浴衣と蚊取り線香と団扇。
斜断鬼 ステテコとパンティだったらやらしいね。
風眠(高田文夫 放送作家) 違うもんさしたりね(笑)
野ざらし 誰がそんなとこまで読むんだ。深読みだよ。
喫蟲(松尾貴史 俳優・コメンテーター) これは、どなたですか?
駄郎(吉川潮 作家・演芸評論家) あたしです。
中瀞 ステテコで街歩いてるお爺さん、居なくなりましたね。
風眠 いない。植木等が最後の日本人だった。
有線が流れる店の冬の蠅
三魔 ドンピシャで映画の一場面だ。高倉健の「駅STSTION」。倍賞千恵子との。
風眠 そういうつもりで、あたしつくった。
野ざらし 風眠のイメージと違うなぁ。
風眠 本当は、知っていながら知らないそぶり。これをやくざの恋という(笑)
邪夢(島敏光 イベント司会者)こういう店の蠅は長生きするんだよね。
三魔 高田さんの頭の中、ダジャレが渦巻いている中で、どうしてこういうまともな句が出るのか(笑)
風眠 長年こういう職業をやっていると場の空気が読めて、どういう作風だと目立つかな、と分かる。ま、天才です。
斜断鬼 ヤな俳人。たいこもち俳人(笑) (敬称略 次話に続く)
(147)続々「駄句、この粋と恥」
三魔 次は、
蛤の居心地悪しアルミ鍋
一同 わかるわかる。時代(いま)の気分だ。
粕利 あたしですけど。
中瀞 おうち自体も居心地わるいんですか?
粕利 うるさいね。蛤の気分を詠んでるんだよ。
野ざらし これ、駄句じゃないよ。いい句だよ。
三魔 投稿句なんかでは、アルミ鍋という言葉は使わないんだよ。そこがこの句の偉いところ。
野ざらし アルミだとワビ、サビじゃないからね。
風眠 アルミ鍋はサビないから(笑)
肉じゃがをよそ行きにする木の芽かな
斜断鬼 こらまた、ちちゃい人生の句だね。やっぱりこれも喫蟲の句かい?
喫蟲 違いますよ。濡れ衣ですよ(笑)
中瀞 僕です“ちっちゃい”たい平です(笑)
中瀞 家でカミさんが煮たやつなんですけど、それにちょっと木の芽のっけてよそにあげる。で、持ってゆくのは僕の仕事(笑)
三魔 たい平くんの近所では、こういう付き合いをやってるの?
中瀞 やってます。持っていくのは僕の役目。
春の雨どこが初めで終わりやら
三魔 これは寝ん猫の代表作で記憶にあるの。よその句会でも評価される句だと思う。句調から、「坊主抱いて寝りゃ芯から可愛い、どこが尻やら頭やら」を思い出す(笑)
寝ん猫(木村万里 演芸プロデュサー) やだ。もっと優雅な世界よ。
さて、ここで読者の皆さん、C級句集の“駄句”113句中に「はいかい漫遊漫歩」134話と135話で〈 1970年代、80年代にかけて、第一句集『王権神授説』(75年刊)から『魔都 美貌夜行篇』(89年刊)まで6句集を世に問い、俳句界を駆け抜けた藤原月彦の『藤原月彦全句集』(六花書林)が、令和と元号が変わった2019年夏に刊行された。〉と紹介した耽美派俳人、藤原月彦句が6句搭載されているのです。もう一つの顔は「短歌人」元編集人で現役歌人、藤原龍一郎。句集搭載の俳号は、媚庵。
かたつむり辞書にのせれば辞書を這う
三魔 媚庵の句だよね。。覚えてる。
媚庵 はい、そうです。
中瀞 宇能鴻一郎の頁だったら大変。這ったところに妙な跡がついちゃう(笑)
三魔 高校1年のとき高い辞書を買ったの。隣の奴が一日貸せっていうからいいよって。翌日戻ってきた。パラパラと頁を繰ったら赤鉛筆で印がついてる。「処女膜」の項(笑)。消しゴムでも消えない。姉もやがて見るから弱った。
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