「俳句文法」入門 (15)
─ 形容詞について 其のⅡ─ 大林明彦
「じ」で言い切る形容詞もあるので覚えておこう。特に「同じ」という語である。未然形から〈じく・じから〉と活用してゆく。これもシク活用という。
あらふしぎ、「同じ」には連体形に「同じ」「同じき」と二つの形がある。前者は和文体に、後者は漢文訓読体に用いられている。『大鏡』の序に「同じ所にいぬめり」とある。『方丈記』の都遷りに「同じき年の冬…」とある。「同じかる」はカリ活用の連体形として理論的には成立するが用例は未詳。「じ」で言い切る形容詞には他に「いみじ」がある。甚だしい、激しい、の意。翁いみじく泣く、と『竹取物語』に。
形容詞ク活用の例句。各活用形の順に挙げる。
声よくばうたはうものを桜散る(未然形) 松尾芭蕉
一声の低く 短く寒鴉(連用形) 杉阪大和
人の輪を壊して高しどんどの火(終止形) 浅野文男
初雀小さき命のはばたけり(連体形) 鈴木知子
殊更のことはなけれど年惜しむ(已然形) 棚山波朗
二つの矢もつことなかれ弓始(命令形) 詠人しらず
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