「俳句文法」入門 (27)
─ 完了の助動詞について─ 大林明彦
完了の助動詞「つ・ぬ・たり・り」について考えてきたが、例句をあげてもう一度確認しておこう。
港通り日覆(ひよけ)はやめつ海青し大野林火
夕焼の町を眼下に山下りぬ大塚紀美雄
鯛網の輪を狭めたり船四艘安原敬裕
冬霧の海に浮かべり摩天楼山田春生
完了の訳は「…タ、…テシマッタ、テシマウ」等。時に存続「…テイル、…テアル」に訳す方がいい時もある。つ・ぬについては確述・強意「キット…スル、タシカニ…ダ」と訳すとよいばあいがある。つべし、ぬべし、のようにべしと接続する時である。
鶏頭の十四五本もありぬべし正岡子規
単なる推量・予想の助動詞「む」を強めた表現が、確信のある推量・予想の「べし」である。更に強めの助動詞の「ぬ」を入れて最強調したのが、ぬべし。
《あらむ→あるべし→ありぬべし》と強まったのだ。
また過去の助動詞「き」にも完了・存続の意ありと前回述べた。古語の用例は希有だが今の句には多い。
「咲きし桜」を咲いた桜と訳せば完了、咲いている桜と訳せば存続。訳によって文法的意味は決定する。
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