韓の俳諧 (27)                           文学博士 本郷民男
─ 初期の『京城日報』 ─

 1906年(明治39)に、朝鮮総督府の機関紙として『京城日報』が創刊されました。
 半島の新聞としては良く残り、2003年から8年にソウルの韓国教会史文献研究院で、縮刷の影印本を刊行しました。『京城日報』の発行は京城大和町、発行兼編集人副島嘉六、1ヶ月で40錢でした。光武という元号の表示もあります。まだ朝鮮王朝の末期で、国号を大韓帝国とし、光武の元号を使っていました。しかし、日本が半ば植民地とし、京城大和町という地名に変えていました。明治43年2月17日の記事をみましょう。
 俳句懸賞募集
▲課題 春寒 海鼠 選者 橋本牛人君
▲規定 一、応募句数は一人各四句に限り字体明瞭に葉書に認むべし(字体明瞭ならざるものは没書とす) 二、締切期限2月20日、3月1日より発表 三、句末に住所姓名を明記すべし 四、宛先は京城大和町京城日報編輯局俳句募集係とすべし
懸賞 天:銀側懐中時計 一箇 地:銘仙 一反 人:東京双子 一反 選外十客:本社新聞2ヶ月分
 選者の橋本牛人は橋本林松で、住所が京城大和町(大正3年『現代全国俳人名簿』)と、社員かも知れません。懸賞の最高は恩賜の銀時計を思わせます。銘仙や双子織は中級の着物地です。3月12日の記事では。
 
 懸賞募集俳句(六) 橋本牛人君選
   春寒
蕗の薹など湯豆腐の春寒し ゆかり
針売りの数嘘ならぬ春寒し 鐘の舎
断髪令ありと史に読む春寒き 釜山 天南
木佛未だ春寒を塗らであり 龍山 蘭舟
一人旅と憐めと掟春寒も 関山 舜園
灘荒れに魔除けの唄も春寒し 
   海鼠
御厨に海鼠などとは賢しや 旅順 翠村
海鼠など捕るらむ浦の薪焚く火 柳翠
海鼠切る包丁の恥思ひけり 長野 小茂
海鼠喰ふや腹中の物動くよに 旭川
帰趣説かず海鼠に所感あり 平壌 紫柳
海荒れけん其の夜の海鼠石となり 詩渓楼
 この時の賞品は特別だったようです。明治44年5月11日には、幅広い懸賞広告が載っています。
 読者文芸(一等五十錢 投書歓迎)
川柳次回課題 蝙蝠傘 締切5月16日
俗謡次回課題 青葉蔭 締切5月14日
次回一口噺      締切5月13日
俳句次回課題 行く春 締切5月12日
狂歌次回課題 夜逃げ 締切5月11日
12日発表謎  雷とかけ
 このように、『京城日報』は大衆文芸の貴重な資料となっています。