「俳句文法」入門 (28)          
─ 過去の助動詞「き」について 其のⅡ─              大林明彦 

 「き」は「…た」と訳し、自分が過去に経験した事実を回想する意を第一義に示す。同じように過去に確かにあった事実を述べる意を表す。本誌に適句あり。
蝗捕り学校行事にありこと久保木恒雄
 次に完了・存続「…た。…ている」の意を表す。古文には用例は少く同じ和歌(短歌)が各辞書に載る。しかし今日ではこの用例は多い。最近の本誌より。
日溜りに凍蝶翅を立てまま松谷富彦
風やみ水面に艶を増す紅葉正田きみ子
薄ら日にかがよひ初め冬桜武井まゆみ
晩秋の掃きぐせつき竹箒斉藤やす子
夕鳶の笛山葵田の冷えてき実川恵子
 皆完了に存続の要素が沈潜されてはいまいか。実川俳句は、そこに詠嘆・余情が加わる連体形止め。
ふくよかな手もて林檎を剝き高野清風
 これは全ての意に解せる。過去に解した方が母恋いの詩として味わいが深まるか。生母ならば他意。
 サ変「す」カ変「来」を源とする二語を一語化したので本来は、「せ〇○し・しか〇」「け〇き〇○〇」の二活用。せ・し、こ・き、等と接続する。