「俳句文法」入門 (38) 
─── 助動詞「けむ」について ───           大林明彦

「けむ」は過去の推量(・・・タダロウと訳す)を第一義とする助動詞。「来経む」の約など諸説あり。連用形に接続する。連用形とは用語(動詞等)に付く形。

基本形未然形連用形終止形連体形已然形命令形活用の型
けむ (けま) ○けむけむけめ ○四段型
けん ○ ○けんけんけめ ○四段型

 「けむ」はケンと発音するため、「ん」の字の発明とともに「けん」とも表記するようになった。奈良時代にのみ「けむ」の未然形があり、「けまく」のように用いられた。文法的意味と訳し方は次の通り。
①過去推量(・・・タダロウ。・・・ダッタロウ)
 「空よりや降りけむ、土よりやわきけむ」(徒然草)
 <鎌倉を生きて出でけむ初鰹  芭蕉>
 <土雛は昔流人や作りけん   渡辺水巴>
②過去の原因推量(・・・タノダロウ。ダッタノダロウ)
 「帝さうざうしやとおぼしめしけむ、・・・」(大鏡)
③過去の伝聞(・・・タトカイウ。・・・タソウダ)
 「まことに妻の言ひけむやうに・・・」(今昔物語)
④過去の婉曲(・・・タヨウナ。ダト思ワレル)
 「すかし申し給ひけむが恐ろしさよ」(大鏡)