「俳句文法」入門 (40)
─── 推定の助動詞「なり」について ─── 大林明彦
「なり」は断定が殆どですが、推定(・・・ようだ。らしい。にちがいない)の意味で使われる例があります。
耳で聞いた事柄に基づく推定つまり聴覚的推定の場合です。終止形に接続する。(ラ変型には連体形)
白露や芙蓉したたる音すなり夏目漱石
白い露が芙蓉に滴っている音がするようだ、と聴覚的推定をしています。次の句も同じです。
きらきらと鶏頭のこゑとどくなり森 澄雄
七田谷まりうすさんは俳句文法入門で、
雲の峰また鶸の鳴き渡るなり飯田龍太
について、「右は耳に入る鳴き声から推量し、鳴きながら渡ってゆくらしい、と鶸の行動を判断する」と仰しゃっている。やはり聴覚的推定ですね。又、「終止形につく<なり>は近世においては伝聞・推定ではなく、詠嘆の働きをするものと理解されるのが一般的であったが、現代では研究の成果により、伝聞・推定説が定説となっている。特に近世作品の<なり>を理解する際には、この経緯を踏まえて注意を払う必要がある。」と仰しゃる。では次の句の「なり」はどうでしょうか。
柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺正岡子規
- 2023年10月●通巻531号
- 2023年9月●通巻530号
- 2023年8月●通巻529号
- 2023年7月●通巻528号
- 2023年6月●通巻527号
- 2023年5月●通巻526号
- 2023年4月●通巻525号
- 2023年3月●通巻524号
- 2023年2月●通巻523号
- 2023年1月●通巻522号
- 2022年12月●通巻521号
- 2022年11月●通巻520号
- 2022年10月●通巻519号
- 2022年9月●通巻518号
- 2022年8月●通巻517号
- 2022年7月●通巻516号
- 2022年6月●通巻515号
- 2022年5月●通巻514号
- 2022年4月●通巻513号
- 2022年3月●通巻512号
- 2022年2月●通巻511号
- 2022年1月●通巻510号
- 2021年12月●通巻509号
- 2021年11月●通巻508号
- 投稿タグ
- 助動詞 なり