「俳句文法」入門 (49) 
─── 各助詞「を」について ───         大林明彦

「を」は体言(名詞)と用語(動詞)の連体形に接続する。
①動作の対象を表す。平家物語「主従駒を早めて」
古本を和紙で繕ふ一葉忌蟇目良雨
水底を確かむるごと石たたき宇井千恵子
②継続する時間を表す(…の間をと訳す)。「数百年を経たり」(徒然草)
三歳を生き永らへて御慶かな蟇目良雨
秋しぐれ昼を灯して古書の市萩原まさこ
③動作の起点を表す。(…を。…からと訳す)。更級日記「境を出でて総の国……に泊まりぬ。」
日当たりの窓を動かず枯蟷螂山本松枝
山小屋を出れば影濃し冬来たる山本邦夫
④経過する場所を表す。(…を。を通ってと訳す)。伊勢物語「芥川といふ河を率て行きければ…」。
野火止の小橋を渡る神送り生江通子
金木犀の風が鼻腔を抜けゆきぬ岡本利惠子
⑤行為の相手を表す。(…と。…に、と訳す)。竹取物語「かぐや姫を必ずあはむ設けして…」(かぐや姫と必ず結婚するような準備をして、と訳す)。