「俳句文法」入門 (53) 
─── 格助詞「と」について ───         大林明彦

「と」は多く体言(名詞)に接続する。
①動作をともにする相手(…と)を表す。 平家物語「なんぢ一所で死なむ…」
朝早く夫分担雪を搔く渡辺信子
病む朋指切り交はす春隣渡辺信子
②変化の結果(…と。…に)を表す。方丈記「大家滅びて小家なる」
鷹鳩化して首を振り歩く蟇目良雨
この年なりて真つ赤なかき氷古市文子      
③内容(…と思って。…と言って)を表す。 伊勢物語「この戸開け給へ」
初蝶振り向けばもう双蝶に杉阪大和
果樹植うやもつと生きる決めし夫大塚禎子  
④並列(…と…と)を表す。方丈記「世の中にある人又かくの如し」
山ほどの魚介酒の奥に花 蟇目良雨
菖蒲田草山あるやさしさよ松本たかし
⑤比喩(…のように)を表す。古今集「雪花は散る…」(雪のように桜が散る)その他引用や強調(生きし生けるもの)がある。