「俳句文法」入門 (54) 
─── 格助詞「して」について ───         大林明彦

「して」は体言(名詞)と動詞の連体形に接続する。
① 動作の手段・方法・材料(…で。…によって。…を使って、などと訳す)を表す。
 伊勢物語「指の血して書きつけける」(指の血書きつけた)(二四段)指は「および」と読む。
若葉して御目の雫ぬぐはばや松尾芭蕉
囮鮎して若鮎を釣りにけり詠み人しらず
② 共に動作する人数・範囲(…で。…と。…とともに、などと訳す)を表す。
 伊勢物語「もとより友とする人、ひとりふたりして行きけり」(前から友としていた人、一人二人とともに行った)(九段)
先師して奥能登の秋たづねけり詠み人しらず
③ 使役の対象(…に。…を使って。〜に〜させる、というふうに訳すことが多い)を表す。
 大鏡「蔵人して削りくづをつがはしてみよ」(蔵人を使って削りくずを柱にあてがってみよ)
黒葡萄弟をして供へけり詠み人しらず
 5月号本欄の句「注ぎ零してより盛り上がる年忘」の句の「より」は副詞(更に。一層。)と訂正します