「俳句文法」入門 (57)
─── 上代の格助詞「ゆ」について ─── 大林明彦
「ゆ」は体言(名詞)と動詞の連体形に接続する。便利な一字一音なのでどんどん使ってほしい。中古から「より」が主流となったが中々使い勝手の良い語。
①起点を表す。(…から。…より。)万葉集「天地の別れし時ゆ…」
月ゆ声あり汝は母が子か妻が子か 中村草田男
まどろみゆ覚むれば春のゆふべなる 日野草城
②経過する地点を表す。(…を通って)万葉集「田児の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ不二の高嶺に雪は降りける」これは森本治吉博士(万葉学者・歌人)が発見した説。次男の修一先生より教えを受けた。
鰹ぶね三浦の島ゆ出で行けり 詠み人知らず
③手段を表す。(…によって。…で。)万葉集「赤駒を山野に放し捕りかにて多摩の横山徒歩ゆか遣らむ」(赤みを帯びた茶色の馬を山野に放牧して捕まえられず夫に多摩の横山を歩かせてしまうのだろうか。中西進訳参照)
秋深き多摩川を舟ゆ下りけり (仮作)
④比較を表す。(…より)万葉集「…海ゆまさりて深くしそ思ふを」
わが意志は石ゆ固しも秋茜 (仮作)
格助詞「よ」も全く同じ意味と用法である。「へ」は体言(名詞)に接続する。語源は辺か。
- 2024年12月●通巻545号
- 2024年11月●通巻544号
- 2024年10月●通巻543号
- 2024年9月●通巻542号
- 2024年8月●通巻541号
- 2024年7月●通巻540号
- 2024年6月●通巻539号
- 2024年5月●通巻538号
- 2024年4月●通巻537号
- 2024年3月●通巻536号
- 2024年2月●通巻535号
- 2024年1月●通巻534号
- 2023年12月●通巻533号
- 2023年11月●通巻532号
- 2023年10月●通巻531号
- 2023年9月●通巻530号
- 2023年8月●通巻529号
- 2023年7月●通巻528号
- 2023年6月●通巻527号
- 2023年5月●通巻526号
- 2023年4月●通巻525号
- 2023年3月●通巻524号
- 2023年2月●通巻523号
- 2023年1月●通巻522号
- 投稿タグ
- 格助詞「ゆ」