「俳句文法」入門 (6)          
─ < 恋す・恋し・恋ふ >を識別しよう ─         大林明彦 

 恋しけりが下五の句が、ある句会で出された。恋しかり 、恋しかりけり 、では? との意見も出た。しかしこれでよいのだ。助動詞「けり」は連用形に付く。
サ変動詞「恋す」(せ・し・す・する・すれ・せよ、と活用)の連用形の恋し 、であるからだ。恋しかりは形容詞「恋し」のカリ活用の連用形で、終止形として用いるのは好ましくはない。が、流行っている。涼しかり、美しかり等。「かり」が「くあり」の約語でラ変の終止形の一部だが、形容詞は「し」で言い切るのが正しく認められていない。恋しかりけりは全く正当だが字余りがリズムを毀す。恋しけれと形容詞化で結ぶのは可だ。「恋ふ」はハ行上二段活用、〈ひ・ひ・ふ・ふる・ふれ・ひよ〉と活用。
老いてなほ母を恋ひをり花ゆすら山田えつ子
 優しけりもよく拝見する。品詞分解すれば優しは形容詞シク活用の終止形。「けり」は終止形には付かない。優しかりけりが正当。字余りを約めたければ優しけれにする。形容詞優しの已然形で一語だから。係結びのこその省略形で強調となる。涼しけれ、美しけれ、悲しけれ、久しけれ…等已然形で結ぶのだ。