「俳句文法」入門 (64)
─── 接続助詞「で」について ─── 大林明彦
「で」は動詞の未然形につく。打消の助動詞「ず」に「して」のついた略語。打消接続という。「…ないで。…ずに」と訳す。句作に使用してほしいもの。
「さては扇のにはあらで 海月のななり」 (枕草子)
(それでは扇の骨ではなく海月の骨なのでしょう)
「親のあはすれども聞かでありける」 (伊勢物語)
(親が結婚させようとするけれど聞かずにいた)
それぞれラ変動詞「あり」の未然形「あら」、四段活用の動詞「聞く」の未然形「聞か」に接続している。
三人の俳人の「で」の使用例を挙げる。
動くとも見えで畑打つ男かな向井去来
踏青や法三章は読まで過ぐ内藤鳴雪
枯萩のいつまで刈らであることか高浜虚子
三句ともに動詞の未然形についている。見ゆ「ヤ行下二段活用」の未然形「見え」、四段活用の読むの未然形「読ま」、四段活用の刈るの未然形「刈ら」である。全て「ず」に代替できるが「で」の方に含蓄が漂う。
乾佐知子女史の出版記念会は素晴らしかった。蟇目主宰、池内氏、松谷氏の中身濃い話と司会の伊藤氏の明るさ。文法の話も倉林女史に気合を入れられた。喝!
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