「俳句文法」入門 (9)          
─ カ行変格活用について ─             大林明彦 

  語尾がカ行のキ・ク・コに活用する動詞をカ行変格活用(カ変)という。〈こ・き・く・くる・くれ・こ( こよ)〉と活用する。終止形が「来(く)」、命令形が「来(こ)・来(こ)よ」。未然連用終止連体已然命令形の例句。
茶を焙ず誰も来ぬ春の夕ぐれに渡辺水巴
馬小屋に鴉来てゐる冷夏かな小野寺清人
待ち人来噴水にもう倦きる頃杉阪大和
ただ一羽来る夜ありけり月の雁夏目漱石
冬来れば母の手織の紺深し細見綾子
親子三人相乗りて来よ瓜の馬植木緑愁
 純粋なカ変は「来」一語のみ。しかし他の動詞の連用形に接続してカ変複合動詞を作る例は数多ある。
 「出で来」「詣で来」「飛び来」「駆け来」など。又「来たり」はカ変の来(く)の連用形に完了・存続の助動詞「たり」の終止形の付いたもの。きた。きている。
 「来たる」はラ行四段活用の自動詞の基本形で、来た〈ら・り・る・る・れ・れ〉と活用する。来至るの約語。夏来たるらしと万葉集にある。来きたるも可。
路地裏に習ひの笛や夏来たる竹内岳
持国天の厚き胸板夏来る前阪洋子