自由時間 38 鄭義信 三部作
山崎 赤秋
この3月から5月にかけて、新国立劇場で鄭義信(チョン・ウィシン)三部作が連続上演された。3月『焼肉ドラゴン』、4月『たとえば野に咲く花のように』、5月『パーマ屋スミレ』。
鄭義信は、脚本家、劇作家、演出家として活躍中である。その功績により2014年に紫綬褒章を受章した。その受賞歴を見れば、優れた仕事をしていることが分かる。
映画の脚本では、『月はどっちに出ている』『愛を乞うひと』『血と骨』が、いろいろな映画賞の脚本賞を受賞している。
戯曲では、『ザ・寺山』で岸田國士戯曲賞を受賞。そして、『焼肉ドラゴン』では数々の演劇賞を総なめにした。
鄭義信、その名前からすぐわかるが、在日韓国人の3世である。1957年姫路生まれ。
実家は、姫路城の外堀の石垣の上に建てた家。朝鮮人集落の中で、いうまでもなく国有地の不法占拠だが、父親は、その土地は買ったものだと言い張っていたという。
上の三部作には、その出自が色濃く反映している。1950年代、60年代、70年代、その時々の歴史の波に翻弄される貧しい在日コリアンの物語である。
年代順にみていくと、50年代を舞台にするのは、『たとえば野に咲く花のように』。
1951年、朝鮮戦争のさなか、特需景気に沸く福岡の港町にあるダンスホール兼売春宿、ときおり軍用機の爆音が聞こえる。戦死した婚約者を想いながら働く満喜。あとは踊り子2人。満喜には弟がいるが、元憲兵という経歴が災いして母国にも戻れず、職にもつけず、反体制運動に身を投じている。そこへ先ごろオープンしたライバル店の店主・康雄と、その弟分・直也が、店に火炎瓶を投げ込んだ犯人を追って現れる。帰還兵の康雄は、あかねという婚約者がいながら、満喜に夢中になるが、満喜は受け付けない。一方、弟分の直也はあかねに想いを寄せている。この四角関係はどうもつれていくか、というお話。
60年代を舞台にするのは、『パーマ屋スミレ』。時は東京オリンピックの翌年1965年。有明海を見下ろす「アリラン峠」と呼ばれる炭鉱町にある理容所。在日コリアンの元美容師の須美が父親、姉妹、そして夫と住んでいる。須美の夫の成勲は炭鉱での爆発事故に巻きこまれ、義弟ともども一酸化炭素中毒患者となる。労災認定を求めて闘争するが、要求どおりにはいかない。やがて閉山され家族はバラバラになり、須美夫婦だけが残る、というお話。
70年代を舞台にするのは、『焼肉ドラゴン』。世は万博で浮かれる1970年。伊丹空港のそばの朝鮮人集落にある焼肉店「焼肉ドラゴン」。もちろん不法占拠。戦争で片腕を失った店主・金龍吉の家族は、妻と、それぞれの連れ子3人と現夫婦の1人息子の6人。
陽気な客たちで毎夜にぎわっているが、家族はそれぞれ問題を抱えている。有名私立に入れた息子はイジメにあい不登校になり留年する。それでも学校に行けと龍吉に言われて自殺してしまう。立ち退きを迫る市役所の職員に、龍吉は、土地を奪うなら腕を返せ、息子を返せと叫び、嗚咽する。が、結局立ち退かざるをえず、それぞれ、北朝鮮へ、韓国へ、日本の別の所へと行くことになる、というお話。
こうして要約すると、いずれも痛ましい悲劇のようにみえるが、舞台はエネルギッシュで、笑いに満ち、最後には絶望ではなく希望を感じさせるものであった。
6月5日、川崎で「ヘイトデモ」騒動があった。民族差別的な言動にさらされて辛い思いをしている在日コリアンが今もいる。そのデモを阻止するために数百人が集まって中止させたと報じられていた。よかった。
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