自由時間 39 永六輔逝く
7月7日、永六輔が東京・渋谷の自宅で亡くなった。パーキンソン病や前立腺癌などを抱えて療養中であった。直接の死因は肺炎であるが、老衰と言っていい状況で穏やかな最期だったという。享年83。1933年、浅草の最尊寺(浄土真宗)の住職の次男として生まれる。高校生の頃からNHKラジオ「日曜娯楽版」にネタの投稿を始める。早稲田大学第二文学部在学中に三木鶏郎に見出され、放送作家・司会者としてデビューする。
多彩な才能を発揮した人で、放送作家、タレント、作詞家、ラジオのパーソナリティ、随筆家あるいは雑文家などいろいろな肩書を思いつく。この中で一番名を残すのは、作詞家としてであろう。
1959年、作曲家・中村八大に勧められて作詞を始める。最初の曲が「黒い花びら」(歌・水原弘)。これが大ヒットし、この年の第1回日本レコード大賞を受賞する。六・八コンビは、これまでの日本にはない新しい歌の作者として華々しくデビューした。
その後、六・八コンビは数々の名曲を生みだす。その舞台になったのは、1961年4月から5年間放送されたNHKのバラエティ番組「夢であいましょう」である。「今月の歌」というコーナーがあり、毎月六・八コンビが新しい歌を作っていた。その中から、名曲が次々生まれた。
わが愛唱歌となっている曲を制作順に挙げると、「上を向いて歩こう」「遠くへ行きたい」「いつもの小道で」「おさななじみ」「こんにちは赤ちゃん」「ウェディング・ドレス」「心はずんで」「目を閉じて」「娘よ」「帰ろかな」などである。毎月、NHKに返信用封筒を送って楽譜を送ってもらい、一生懸命覚えたものだ。
1966年から69年にかけて、永六輔作詞、いずみたく作曲、デューク・エイセス歌で発表された「にほんのうた」シリーズからも名曲が生まれた。「いい湯だな」「筑波山麓男声合唱団」「君の故郷は」「女ひとり」「別れた人と」「フェニックス・ハネムーン」など。永六輔・いずみたくコンビの曲では、「見上げてごらん 夜の星を」(歌・坂本九)も忘れられない名曲である。 中村八大、いずみたくという優れた作曲家に恵まれていながら永六輔は作詞をやめることを宣言する。2人は仲良しであるがライバルでもあり、その板挟みのようになったようだ。また、印税を頼りにしていると、等身大でいられなくなる不安があるから、という理由もあったらしい。
作詞をやめて始めたのは、収入にはつながらない俳句だった。1969年1月5日に発足した「東京やなぎ句会」に参加する。入船亭扇橋(『馬酔木』同人)を宗匠に、永六輔・小沢昭一・江國滋・桂米朝・柳家小三治・神吉拓郎・加藤武などメンバー12名。その句会での永六輔の句からいくつか。
寝返りをうてば土筆は目の高さ
夕映えの空を区切りて障子貼る
古今亭志ん生炬燵でなまあくび
ずっしりと水の重さの梨をむく
もう一句、奥さんに先立たれて。(2001)
看取られる筈を看取って寒椿
では最後に、六・八コンビで最後に作った「生きるものの歌」を歌って、お別れしたいと思う。
♫あなたがこの世に生まれ
あなたがこの世を去る
私がこの世に生まれ
私がこの世を去る
その時 涙があるか
その時 愛があるか
そこに幸せな別れが
あるだろうか あるだろうか
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