自由時間 (67)世界が選んだ日本映画 山﨑赤秋
映画が好きである。週に一度は劇場に足を運ぶ。今はどの劇場もシニア料金という年金生活者にやさしい制度があって助かる。最近観た映画では、『パッドマン~5億人の女性を救った男』というインド映画が面白かった。
実話に基づく映画で、インドの小さな村で新婚生活を送る主人公が、貧しくて生理用ナプキンが買えず、不衛生な布で処置している最愛の妻のため、清潔で安価なナプキンを作ろうと決心し、様々な困難に遭いながらもついに成功するというお話。主人公は手作りで製造機械も作り上げ、その安い機械をインド中に広め、女性に雇用機会も与えた。衛生面でも経済面でもインド女性に大いに貢献したのである。ちなみに、インドにおける生理用ナプキンの普及率は、現在でも都市部で30%、地方で10%と推計されている。
前置きが長くなった。映画はやはり劇場の大スクリーンで見るに限るが、そのほかにも、TV放送やDVD・ブルーレイなどでも観るので、週に10本くらいは観ているかもしれない。
先月号のあとがきで少し触れたが、2018年10月30日、英国のBBCが外国語映画ベスト100を発表した。外国語というのは英国から見た場合のことで、つまり英語以外の言語で製作された映画のことである。世界43ヵ国の映画評論家209名がそれぞれ自分の考えるベスト10を選び、それにウエイトを付けて集計したものである。
全体でベスト10に選ばれたのは、以下のとおり。
① 七人の侍(黒澤明)
② 自転車泥棒(ヴィットリオ・デ・シーカ)
③ 東京物語(小津安二郎)
④ 羅生門(黒澤明)
⑤ ゲームの規則(ジャン・ルノワール)
⑥ 仮面/ペルソナ(イングマール・ベルイマン)
⑦ 8 1/2(フェデリコ・フェリーニ)
⑧ 大人は判ってくれない(フランソワ・トリュフォー)
⑨ 花様年華(ウォン・カーウァイ)
⑩ 甘い生活(フェデリコ・フェリーニ)
国別にみると、日本映画、イタリア映画が各3、フランス映画が2、スェーデン映画、香港映画が各1という内訳になった。
監督別にみると、得票数が50を超えるのは次の7名である。①黒澤明(12作品)、②イングマール・ベルイマン(スェーデン、9作品)、③フェデリコ・フェリーニ(イタリア、7作品)、④ウォン・カーウァイ(王家衛)(香港、7作品)、⑤ジャン=リュック・ゴダール
(フランス、10作品)、⑥フランソワ・トリュフォー(フランス、7作品)、⑦小津安二郎(10作品)。いずれも歴史に名を遺す名監督ばかりである。
全体の投票数は209名×10=2090であるが、そのうち、日本映画に投じられた票数は247票で、比率でみると12%を占める。一大勢力である。その247票を作品でみると72作品で、監督でみると32名になる。
監督で10票以上を集めたのは、黒澤明、小津安二郎、溝口健二、宮崎駿の4名である。
黒澤明は95票を集め、12作品が選ばれている。『七人の侍』『羅生門』『生きる』『乱』『デルス・ウザーラ』『影武者』『赤ひげ』『蜘蛛巣城』『用心棒』『夢』『酔いどれ天使』『まあだだよ』である。
次に多いのは、小津安二郎で51票、10作品が選ばれている。『東京物語』『晩春』『大人の繪本 生まれてはみたけれど』『東京の宿』『秋刀魚の味』『麦秋』『彼岸花』『お早よう』『秋日和』『その夜の妻』である。
溝口健二は24票で、7作品。『山椒大夫』『雨月物語』『残菊物語』『近松物語』『お遊さま』『西鶴一代女』『祇園囃子』である。
宮崎駿は18票で、4作品。『千と千尋の神隠し』『となりのトトロ』『ハウルの動く城』『もののけ姫』。
以上4監督に続くのは、成瀬巳喜男(4作品)、今村昌平(4作品)、大島渚(1作品)、是枝裕和(3作品)、滝田洋二郎(1作品)…である。
作品別にベスト10をみると次のとおりである。
① 七人の侍(黒澤明)
② 東京物語(小津安二郎)
③ 羅生門(黒澤明)
④ 千と千尋の神隠し(宮崎駿)
⑤ 晩春(小津安二郎)
⑥ 生きる(黒澤明)
⑦ 山椒大夫(溝口健二)
⑧ 乱(黒澤明)
⑨ 雨月物語(溝口健二)
⑩ 残菊物語(溝口健二)/となりのトトロ(宮崎駿)/浮雲(成瀬巳喜男)/愛のコリーダ(大島渚)/おくりびと(滝田洋二郎)
90年に及ぶトーキー映画の歴史を見ると、日本映画は、その初期から、ハリウッドも一目置くくらい質的に優れていた。右の結果は、そのことを如実に物語っている。しかし、世界に選ばれた72作品のうち、2000年以降の作品は9作を数えるのみであり、32名の監督のうち存命者は12名を数えるに過ぎない。これが、日本映画の衰退を意味するものでなければよいが。
ところで、ここに挙げた作品のうち、皆さんはいくつ観ていますか。好きな映画はありますか。筆者は、戦前の作品以外は大体観ています。
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