自由時間 (80) 地球クライシス 山﨑赤秋
昨年11月、水の都ベネチアが、暴風雨と高潮に襲われ、その8割以上が水に浸かった。サン・マルコ広場には膝上まで水が押し寄せ、サン・マルコ大聖堂の正面テラスに立つ4頭の馬の銅像が、プールのようになった広場を茫然と見下ろしていた。
昨年6月、フランス南部のベラルグ村の気温が観測史上最高の46.0度に達した。7月、パリの最高気温が42.6度を記録したのをはじめ、ヨーロッパ各地の気温が軒並み40度を超え、これまでの最高記録を更新した。中東並みの暑さだ。どの街でも人々はたまらず噴水で水遊びをはじめた。北アフリカからの熱波によるものだ。
昨年9月からオーストラリアでは森林火災が相次いで発生した。今も続いている。雨が観測史上最も少なく空気が乾燥し、平均気温も過去最高を記録し、さらに記録的な熱波が到来したためだ。10億以上の野生動物が命を失ったとされている。ニュースで流されていた、コアラの逃げ惑う姿が痛々しい。
1月15日、世界気象機関(WMO)は、2019年の世界の平均気温が観測史上2番目に高かったと発表した。産業革命前に比べると1.1度の上昇になる。その影響で、世界の海水温は過去最高となった。このまま温室効果ガスの排出が続くと今世紀末までに、産業革命前より3~5度上昇することになる見通しだ。
国連にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)という委員会がある。気候変動の状態とそれがもたらす環境や経済・社会への影響について明確な科学的見解を提供する目的で1988年に設置されたものだ。
そのIPCCが、たて続けに三つの特別報告書を発表した。危機感に駆られてのものだ。
「1.5度特別報告書」(2018.10)「気候変動と土地」(2019.8)「海洋・雪氷圏特別報告書」(2019.12)である。
ざっと要約すると、「1.5度特別報告書」では次のように述べている。
温暖化の影響はすでに広範囲にあらわれている。異常気象は頻繁に起こっており、海面上昇や北極海の海氷減少などをもたらしている。移住を余儀なくされる人々も出てきている。このままの速さで温暖化が進めば、2030~52年の間に気温が1.5度上昇すると予測される。今すぐに温室効果ガスの排出量をゼロにすれば、1.5度を超える可能性は非常に低い。1.5度におさえるためには、2010年のレベルに比べて、2030年までに二酸化炭素の排出量を約45%削減する必要がある。遅くとも2050年頃までに二酸化炭素排出量を「正味ゼロ」にする必要がある。メタンなどの二酸化炭素以外の温室効果ガスの削減も併せて重要である。そのためには、すべての部門での排出量を削減しなければならない。人々の行動様式を脱炭素に向けたものへと変えていく必要がある。
「気候変動と土地」では次のように述べている。
人間は今まで大規模に自然を改変してきた。その結果、温室効果ガスの排出・吸収、大気と陸地の熱交換、水循環等を変化させ、気候システムに大きな影響をあたえてきた。温暖化は、砂漠化、土壌侵食、植生の損失、山林火災、永久凍土の融解などをもたらし、食料供給を不安定にする。さらに、報告書は「食料システム」としての温室効果ガスの排出量についても言及している。食料の生産に直接関連する排出に加え、加工、流通を経て最終的に消費されるまでのプロセス全体を考慮した食料システムからの排出は、総排出量の20〜30%をしめる。うちフードロスは8%になる。フードロスの削減や食生活の変更(肉の摂取を減らす)が必要だ。また、農業を例にとれば、その生産性の向上に取り組むことは、気候変動の緩和や適応、砂漠化防止、土地劣化防止、食料安全保障のすべてに良い影響を大きなスケールで及ぼすことができる。
「海洋・雪氷圏特別報告書」では次のように述べている。
地球の表面の約4分の3をおおう海洋は、膨大な量の余剰熱と二酸化炭素(産業革命以降放出された量の3分の1)を吸収している。陸地の10%を占める氷床と氷河が、温暖化によって縮小・消失している。しかも、それが不可逆的である可能性が高い。それは、海面水位の上昇、災害リスクの高まり、そして山岳地帯・北極圏・極域など雪氷圏の環境に依存している人々の生計が失われることを意味する。海水温の上昇は、熱帯低気圧の強大化と降水量の増加をもたらし、それにより、海面水位の上昇・高波・沿岸部での浸水被害が生じる。今まで100年に1回の割合で発生していた局地的な海面水位の上昇が、ほとんどの場所で少なくとも年に1回の割合で発生するようになる。とりわけ海抜の低い巨大都市(東京も)や小島嶼において深刻な被害をもたらす。いま、野心的な排出削減策に取り組まなければ、壊滅的な結果を引き起こしてしまうと指摘している。
以上のIPCCの提言にもかかわらず、12月にマドリッドで開催されたCOP 25 (国連気候変動枠組み条約締約国会議)では妥協的な合意しかえられず、国連のグテーレス事務総長は、「国際社会は気候危機の緩和や適応、財政支援において一層の野心を見せる大事な機会を逸した」と失望を表明した。
中国、米国、インド、ロシアに次ぐ世界第5位の二酸化炭素排出国にして、いまだに石炭火力発電所を推進している日本の発言が注目されたが、小泉環境相の口からは、野心的な話は聞けなかった。育児休暇のことで頭がいっぱいだったのかしら。
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