自由時間 36 BRTに乗る
山﨑赤秋
JRの気仙沼線は、宮城県石巻市の前谷地駅と気仙沼市の気仙沼駅を結ぶ、73キロの鉄道路線であった。そのうち陸前戸倉~気仙沼間(43キロ)は三陸海岸沿岸を走行する。東日本大震災により、沿岸部区間は甚大な被害を受けた。21あった駅舎のうち九駅が流失し、3駅が損壊した。線路の流失・埋没、橋梁・橋桁の流失・損壊、電柱の損壊などの被害は240ヶ所に上った。
大船渡線は、岩手県一関市の一ノ関駅から気仙沼市を経由して岩手県大船渡市の盛駅までを結ぶ、106キロの鉄道路線であった。そのうち気仙沼~盛間(44キロ)は三陸海岸沿岸部を走行する。その沿岸部区間の被害は甚大で、12あった駅舎のうち6駅が流失し、一駅が損壊した。線路等の被害箇所は60ヶ所であった。
両線の沿岸部区間の早期復旧が困難なことは明らかだった。そこで、代替交通機関として整備されたのがBRT(バス・ラピッド・トランジット)である。JRは「バス高速輸送システム」と呼んでいる。線路を撤去して整備した専用道路を走行し、早期に整備することのできない区間は一般道を走行するバスである。専用道路区間は半分くらいである。
気仙沼線BRT(柳津~気仙沼)は2012年8月から、大船渡線BRT(気仙沼~盛)は2013年3月から運行されている。
当初、BRTはあくまでも仮復旧という位置付けであったが、昨年7月、JRは沿線自治体5市町に対し、鉄路の復旧を断念してBRTにより本格的に復旧させることを提案した。(工事費1100億円の負担が重いというのが理由の一つ)気仙沼市を除く4市町は、12月に受け入れを表明、気仙沼市もこの3月に渋々受け入れを表明し、鉄路復旧断念・BRTによる本格復旧が確定した。
この3月、所用で仙台を訪れた機会に少し足を延ばしてこのBRTに乗ってみた。宮城県石巻市の柳津から、気仙沼で乗り継ぎ、岩手県大船渡市の盛まで、100キロ、3時間20分のバスの旅。
鉄道が甚大な被害を受けたのだから、当然その他の人的・物的被害も甚大であった。BRTで通った南三陸町、気仙沼市、陸前高田市、大船渡市の死者・行方不明者数は、合計4459名で全犠牲者数の5分の1、全壊家屋数は約1万7000戸で全国計(13万戸)の13%に上る。4市町で一番被害が大きかったのは陸前高田市で、死者・行方不明者は住民の7.6%、全壊家屋は全家屋の47%に達した。
あれから5年後の被災地をバスは行く。目にするのは、かさ上げ工事や高台の土地造成工事、道路工事、港湾整備工事の現場で、ショベルカーやブルドーザなどの重機が動き回り、ダンプカーがしきりに出入りしている。
基盤の整備にはまだしばらくかかりそうで、その上に街並みが再建されるのは、早くても5年後位になりそうである。学校の校庭などにはそれを待つ仮設住宅が並ぶ。
震災の爪痕をそのまま残しているのは、鉄道の橋脚や駅、鉄筋・鉄骨コンクリート造のホテルや学校・病院など。ひときわ印象深いのは、赤い鉄骨だけになった南三陸町の防災対策庁舎。最期まで防災無線で避難を呼びかけ続けた女性職員が犠牲になったところ。
もう一つ印象深いのは、奇跡の一本松。陸前高田市には、高田松原という白砂青松の名勝があったが、津波ですっかり流され、1本だけが残った。それが奇跡の一本松である。
しかし、翌年5月には枯死。現在立っているのは、幹をくりぬいて保存処理をし、レプリカの枝葉を付けたもの。(かかった費用は1億5000万円。うーん、これをどう考えるか) 海は何ごともなかったかのように輝き、静かに牡蠣筏を浮かべていた。
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