自由時間 ㊵ 祝イチロー三千本安打 山崎赤秋
8月7日午後4時半(現地時間)、米国コロラド州デンバーのクアーズ・フィールドで、イチローが、右翼にある各地試合のスコア掲示板直撃の三塁打を放って、三千本安打を達成した。
イチローが、大リーグにデビューしたのは 2001年、27歳の時であるが、それから16年。三千本安打を達成した大リーガーの中ではデビューが一番遅い。ほかの選手は、23歳までにデビューを果たしている。イチローが日本のプロ野球にデビューしたのは 1992年、19歳の時であるが、もし、この時に大リーグにデビューしていたら、今頃は四千本安打を達成していたかもしれない。
大リーグで、三千本安打を打つということは、超一流打者の証しである。大リーグは145年の歴史を持つが、今までにプレーした野手約8000人の中で、三千本安打を達成したのはイチローを含めて、30人しかいない。
イチローはいま42歳、10月22日には43歳になる。大リーグの野手の中では、最年長である。しかし、衰えをみせない。衰えはまず足から、といわれるが、本人の感触では、去年より、いや五年前よりも速くなっているという。去年から使っている新しいスパイクのおかげかもしれない。このスパイクは、「人類最速の男」ウサイン・ボルトの着地を再現するらしい。
選手生命が長いのは、プロフェッショナルとしては当たり前の徹底した自己管理と準備によるものである。アスリートに怪我はつきものであるが、イチローは、故障者リストに入ったことは胃潰瘍による1回だけで、筋肉回りを痛めて同リストに入ったことは一度もない。日ごろの鍛錬のたまものである。
オールスターゲーム中の休暇は、普通の選手には貴重な骨休めとなるが、イチローは休まない。毎日球場に足を運び、フィジカルトレーニング、ランニング、打撃練習、送球練習をメニュー通りにこなしていたという。
さらに人を驚かすのは、数千万円かかる専用のトレーニングマシンを日本から持ち込み、自宅と球場に設置していることである。日に3回は汗を流す。マシンは八種類あり、関節の可動域を広げ、筋肉の柔軟性を高め、疲労を軽減するという効果があるという。筋肉に負荷を与えるトレーニングとは全く違うもので、イチローの動きがいまだにしなやかに見えるのは、このマシンのおかげである。
ストイックに毎日を送るイチローを見ていると、「50歳で盗塁し、60歳で打席に立つ」という究極の目標も達成できるかもしれないと思えてくる。
こういうイチローを見て、バレリーナ・森下洋子の名言を思い出した。「私は毎日、2時間の基本レッスンをやっています。これは私の舞台を支えている大事なレッスンです。1日基本レッスンを怠ると、自分の体が不調になるのがわかります。2日怠ると、パートナーにわかります。そして、3日怠ると多くの人にわかります」
2人のように肉体を使う表現者は、自らを律する日々のルーティンを持つ。厳しい練習を続けることが、パフォーマンスの向上に結び付く。
言葉を使う俳句にも、これを続けていれば、自ずとレベルアップするというような練習方法があればよいのだが、残念ながら無い。
飯田龍太が、早く上手くなる秘訣はと訊かれて「まず1年間、毎日1句ずつ作り書きとめなさい。365日目にはきっといい俳人になっている筈です」と答え、ただし、「たくさんできても書き残すのは1句に限ること。自選力を養うこと、俳句の中の自分を見る、いわば合わせ鏡を持つことが大事だ」と述べている。
地道にこつこつしかないようだ。
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