韓の俳諧 (47) 文学博士 本郷民男
─ 忘れられた朝鮮公論⑧ ─
前号に大正11年春の『朝鮮公論』から、歌壇と俳壇の両方に投稿していた朴魯植(パクロシク) のことを書きました。しかし同時期に朴魯植はホトトギス系で京城から発行されていた俳誌『松の実』にも投句していました。
11年4月号松の実 俳句初歩欄 緑童
鳥消ゆる古寺の藪赤椿 朴魯植
嘴ふきて又𩛰る鳥春の泥 同
同号 社員名簿(其十二)全羅南道木浦府竹洞184 朴魯植
11年6月号松の実 俳句初歩欄 緑童
緑蔭に朽ち行く堂や閑古鳥 朴魯植
鳥の巣や池の畔の一老樹 同
11年7月号松の実 南風 緑童選
南風に煌めく葉裏午の庭 朴魯植
11年7月号松の実 俳句初歩欄 緑童
家めぐる樹々爽やかに幟かな 朴魯植
南吹くやのそと起きたる畦の牛 朴魯植
11年9月号松の実 天の川 耕堂選
銀漢や江渡る櫓の音高し 朴魯植
11年9月号松の実 花火 空螺選
背伸びして簾捲く妻や遠花火 朴魯植
11年9月号松の実 蜻蛉 雨意選
黍の穂を渡る微風や赤蜻蛉 朴魯植
11年11月号朝鮮公論 公論俳壇
【天】全羅南道海南郡邑内 湖山井上美憲
百舌鳥啼くや山井の水の青く澄む
【地】全南木浦竹洞184 朴魯植
いささかの草に偲べり籠の虫
背伸びして簾捲く妻や遠花火 木浦 朴魯植
銀漢や江渡る櫓の音高し 同 同人
驢馬下りて萩の径を通りけり 同 同人
水寒く庭先流る蕎麦の花 海南 湖山
蟲の音に我庭狭き思ひかな 同 同人
朴魯植は大正11年4月号に、『松の実』の会員として載り、「俳句初歩欄」にも投句が載りました。すぐに課題句の欄にも投句を始めて、9月号ともなると、半島内の先輩俳人に伍して、自在に課題をこなしています。
朝鮮公論にも並行して投句していて、11月号には【地】という三席に入賞しました。注目されるのは、その時の【天】が井上兎徑子(1891~1984)だということです。兎徑子は京都の人で同志社大を卒業してすぐ、海南郡に移住しました。その後、木浦実業界の大物・松村徳治郎の長女と結婚し、松村文具店の店主となりました。昭和2年に木浦で創刊された俳誌『カリタゴ』は、広い松村文具店を発行所としました。その時に湖山から兎徑子に俳号を変え、兎徑子と朴魯植が『カリタゴ』の編集や発行に当たりました。
朴魯植の名が『ホトトギス』に出るのは、12年5月号の各地句会報「白藻會【全南、木浦】朴魯植報」が最初です。『松の実』11年7月号に、「白藻吟社(木浦)一静」という句会報があります。医師・厚地一静の白藻吟社を朴魯植が白藻會へ改編し、木浦の支部長として、雑詠にも登壇しました。
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