衣の歳時記 (79) ─ 時代祭 ─
我部敬子
10月は収穫の最盛期である。稲の刈入れを終えると、新穀を供え神に感謝する秋祭を執り行う地方も多い。澄み渡った青空の下、繰り出した神輿の周りに笑顔の人々が集まる。
群山の幸を余さず秋祭藤田湘子
農耕とは関わりがないが、京都の秋の風物詩となった「時代祭」。明治中期に創建された平安神宮の例祭で、時代風俗行列で知られている。「葵祭」「祇園祭」と並ぶ京都三大祭りの一つである。副季語は「平安祭」。
パトカー徐々と時代祭を曳きて来る江口喜一
平安神宮は、平安奠都一千百年紀念事業として1895(明治28)年に建てられた。明治維新の東京遷都で衰退してゆく京都を立て直すために、京都に再び天皇をという願いを込め、桓武天皇を祭神とし、平安京の内裏の一部を復元した社殿を造営した。昭和15年には、京都在位最後の天皇である孝明天皇を合祀している。
時代祭はその奉祝の行事として始まった。「一目で京都の歴史と文化が分かるものを」「京都でしかできないものを」という京都市民の心意気が、市民による平安講社を作り、平安京の各時代の歴史風俗を再現して辿る行列を生み出した。平安遷都の日にあたる10月22日に巡行する。
当初は行列数も6列と少なかったが、今では20列、約2000人、牛馬70余頭の規模に発展した。
縦に見て時代祭は面白し後藤比奈夫
時代祭は京都御所を出て烏丸通り→市役所→三条通り→平安神宮までの2時間半ほどの行程だが、見どころは何といっても綿密な時代考証を重ねた衣装、調度、祭具などの豪華さであろう。
その12000点のほとんどが、当時の材料、技法の粋を集めて復元されているという。正に京都の底力といえよう。
茶道具の一荷も時代祭かな岸風三楼
行列は維新勤王隊列が先頭を飾る。2列目から維新志士列、徳川城使上洛列、江戸婦人列、豊公参朝列、織田公上洛列、室町幕府執政列、室町洛中風俗列、楠公上洛列、中世婦人列、城南流鏑馬列と、京都に所縁のある鎌倉時代までの人物が続々と行進する。
槍振りに風が変わりぬ時代祭山口草兵衛
時代祭ほたほたかなし馬の糞きくちつねこ
12番目は平安時代の藤原公卿参朝列。続く13番の平安時代婦人列は最も華やかで、騎乗の巴御前、並んだ清少納言と紫式部など。この列は花街が担当しているとか。
次は延暦武官行進列、延暦文官参朝列、神饌講社列、前列となり、18番目の神幸列は、両天皇の二基の鳳輦を中央に据え、現在の京都の安寧を見守るという趣向である。
その後を白川女献花列、そして弓箭組が後方を押さえる。
時代祭手綱しつかと女武者飯田眞理子
惜しみなく地擦る束帯時代祭西本一都
時代祭は災害や戦争での中絶はあったが、時代に合った創意工夫を織り込んできた。戦後は昭和初期の数年間、4月に行われていた「染織祭」の女性時代衣装行列を、婦人列として復活させた。伝統をしかと守りつつ現在に生かしていく知恵と柔軟性が、見事である 。
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