日本酒のこと (10)
純米酒 安原敬裕
皆さんは「純米酒」と聞いてどんなお酒を想定されますか。既に何度も触れましたが、日本酒は蒸した米を麴菌の力で糖化させ、これを酵母菌の発酵作用によりアルコールに転化したものです。この場合の材料は米・水、微生物である麴菌・酵母菌ですが、日本酒造りにおいては、発酵途中のタンク内に醸造用アルコールや糖類、酸類等を添加することも認められています。
その意味では、添加物が加えられていないお酒が「純米酒」と云えそうですが、厳密に言えば違います。この欄では特定名称酒という用語が何度も出てきました。日本酒の酒質を担保することを目的に、現在は日本酒を特定名称酒と普通酒に区分しており、特定名称酒と称するには使用する原料や製造方法が一定の基準を満たしている必要があります。具体的には粒の揃った良質な米を使用すること、玄米の精米割合が一定以上であることや麴菌の増殖に使用する酒米の割合が15%以上であること等と定められています。
これにより特定名称酒は、最後まで力強く発酵した綺麗で香味の高い日本酒、つまり飲み助の期待を裏切らないお酒に仕上がるという訳です。その中で、酒米の精米歩合が最も低いものが「純米酒」であり、「純米吟醸酒」はそれ以上の精米歩合が必要です。また、純米酒に少量の醸造用アルコールを添加したものが「本醸造酒」です。なお、以上の基準を一つでも満たしていない日本酒は普通酒に区分され、添加物なしでもラベルに純米酒と表示することは禁止されています。よく「米だけの酒」と表示したお酒を見かけますが、注意して読むと「純米酒ではありません」と併記されています。
さて、戦前までの日本酒は添加物の使用は一切なく全てが広い意味での純米酒でした。ところが、戦時体制となった昭和17年にはお酒の増量を目的に醸造用アルコールの添加が認められました。そして、戦後には三倍増醸酒と呼ばれる糖類や酸味を大量に加えた甘いお酒が主流となり、これが日本酒離れの原因となったことは既に述べたとおりです。
聞くところによると、戦前の日本酒は優良な酵母菌の確保が困難であり、かつ醸造技術が未熟であったため、現在の日本酒に比べると大変に酸味の効いた辛口で雑味の強いお酒が大半だったようです。このため、燗酒にして酸味を和らげるとか、味噌や塩味の効いた味の濃いものを酒肴に酔いを楽しんでいたとのことです。
ところで「純米酒は混ぜもののない本物の酒だが、本醸造酒はアルコール添加のまがいもの」との意見が一部にありますが、これは全くの間違った認識です。アルコール添加により純米酒はキレが良くなり、吟醸酒は香りが引き立つといった優れた効果があります。これについては別の機会に再度触れたいと思います。
三千の選句すませて温め酒沢木欣一
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