日本酒のこと  (25)                     安 原 敬 裕
「日本酒と料理」

   日本酒は、ワインと同様に食事と一緒に呑む酒、つまり典型的な食中酒です。そこで、この欄においても日本酒と料理の相性について触れる必要がありますが、何分にも膨大なテーマであり、ここでは幾つかのポイントに絞って触れたいと思います。
  さて日本酒は、ワインに比べてアルコール度数がやや高くアミノ酸やコハク酸等の旨味成分をより多く含み、かつ甘辛酸苦渋の五味と香りのバランスがとれたお酒です。また、最近の日本酒は醸造面での技術革新により綺麗で上品かつ美味しいものへと年々進化してきています。その日本酒は大別すると、繊細でフルーツ系の香りに特徴のある吟醸酒、米の持つ旨さが実感できる純米酒と本醸造酒、そして乳酸を多く含み芳醇で力強い生酛酒と山廃酒に区分できることはこの欄で何度も紹介したとおりです。
 一般的には、吟醸酒系の淡麗なタイプのお酒は刺身や魚の煮つけ等の淡い味付けの料理に、逆に山廃酒等の芳醇なタイプのお酒は蒲焼やトンカツ等の濃い味付けの料理に合うとされています。一方で、大吟醸酒のなかで特にフルーツ系の香りが高いものは、刺身をはじめとしてデリケートな和食の匂いの邪魔をするとの指摘もあり、ご注意を。しかし、料理の濃淡に応じて日本酒の種類を変えることは現実的ではありません。繊細で端麗と呼ばれる吟醸酒であっても、アルコール度数は純米酒や山廃酒等と同じであり、それなりのボディと奥深さを持っています。このため、お酒と料理の相性の一般論はそれとして、実際にはどのタイプの日本酒であっても全ての種類の料理に合うと考えて間違いないと思います。この点は、ボディや香味に大きな差のあるワインの世界とは事情が異なります。
 そして特筆すべきは、日本酒はフランス料理等の西洋料理との相性も大変に良いということです。ソムリエの田崎信也氏は、日本酒にはカッテージチーズのような乳製品の香りがあり、生クリームを使用したソースや煮込み系の料理に加え、青カビ系のチーズとの相性が抜群である指摘しています。現に、フランス等では西洋料理との良きペアリングを目指した日本酒コンクールが年々盛んになってきています。加えて日本酒は脂肪や酸との相性も良好であり、その意味では中華、インド、トルコ等の全世界の料理との相性も良いと云えます。言わば、食中酒として万能であると云っても過言ではないのです。
 さて、最近は焼き鳥専用、あるいは鯖専用と銘打った日本酒を見かけることがあります。前者では京都伏見の「玉乃光純米吟醸94」があり焼き鳥がデザインされています。AIを活用した味覚センサーで焼き鳥の甘辛酸苦渋の五味を計測して、それとの相性の良い日本酒に仕立てたそうです。同様に水戸市の「一品」が鯖に合う「SABA de SHU」を出しています。興味のある方は試してください。

小正月酒の粕焼く海女溜り升本行洋