日本酒のこと (5)
特級・一級・二級酒の時代 安原敬裕
前回は、地方の良心的な酒蔵の努力により1990年(平成2年)に大吟醸酒、純米酒等の特定名称酒に関する法律が施行されたことを述べましたが、今回は我々が長年にわたり馴染んでいた特級酒、一級酒、二級酒の級別制度に触れておきたいと思います。
皆さんは日本酒を所管しているのが国税庁であることをご存じでしたか。これは税金と関係があります。日清・日露戦争が戦われた明治後半には日本酒が国税収入全体の何と35%を占めており、日本酒のお陰でこれらの戦争が勝利したと云われる所以です。また、この時期には日本酒から税金を確実に徴収することを目的に酒造業を免許制とし、それまで自分の家で造って楽しんでいたどぶろく等は密造酒として取締りの対象になりました。要は、日本酒は税収財源の一丁目一番地であり、それ故に国税庁所管となったのです。
さて、日本酒の級別制度は戦時体制下に導入され、昭和24年に特級・一級・二級に区分されたものが、1992年(平成4年)に廃止されるまでの長いあいだ日本酒の良し悪しを判断する唯一最大の目安となっていました。実はこの級別は個々の酒蔵が国税庁に申請して頂戴するものであり、申請しない酒蔵の酒は二級酒となります。また、同じ蔵の酒でも、申請しないタンクの酒は二級酒扱いとなります。つまり、酒蔵が当局に申請した酒に限り特級酒、一級酒と表示できるという仕組みでした。
そして、このような級別制度の下で実に不都合なことが発生しました。昭和50年代に特級酒や一級酒より二級酒の方が美味だという噂が蔓延したのです。国税庁に申請しない酒は全て二級酒の扱いになるので、二級酒の方が美味というケースは制度上当然にありうることであり、噂は本当だったのです。現に、新潟の「越乃寒梅」の中で最も旨いのは二級酒だと云われた時代があり、私自身も新潟出張の宴席で飲み比べた結果、二級酒に軍配を挙げたという記憶があります。
「特級酒より二級酒の方が美味」という事例が出てきた背景には級別の酒税があります。級別廃止前の酒税は、一升瓶換算で特級酒1095円、一級酒503円、二級酒194円と大きな格差がありました。そのため、地方の良心的な酒蔵の中には、地元の人に安く飲んで欲しいとの考えで良質な酒を敢えて二級酒で売るケースがあったのです。
そして、終にこの級別制度に公然と反旗を翻した酒蔵が出現しました。宮城県大崎市の「一ノ蔵」です。この酒蔵は国税庁への申請を一切行わず、特級酒並みの酒を監査を受けていないという意味の「一ノ蔵無監査 二級酒」のラベルを貼って販売したのです。これで世間は騒然となり、我々が抱いていた特級酒=高品質との既成概念が崩れるとともに、特級酒とは要は高い税金を取るための手段だったことが白日の下に晒された訳です。ちなみに現在の税金は一升瓶換算で198円均一となっています。
宿坊に酒が匂ふよかきつばた皆川盤水
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