日本酒のこと (6)
日本酒の仲間たち 安原敬裕
九州勤務時代に鹿児島で宴席をセットし仲居さんに燗酒を注文したことがあります。日本酒を出されたら困ると思い「焼酎だよ」と念押しをしたら、「日本酒と指定されない限り薩摩で酒といえば焼酎のことです」と言い返されたことを今でも鮮明に思い出します。
我々は日頃漠然と日本酒と呼んでいますが、これを大辞林で引くと「日本特有の酒、特に清酒をいう」とあります。日本特有の酒といえば焼酎も昔から日本の伝統的なお酒ですが、日本酒とは別物として認識されています。醸造酒である清酒に対し焼酎はウイスキーと同じ蒸留酒であり、造り方も味覚も大きく異なることがその理由かなと思います。
大辞林の語義では、清酒以外にも日本酒と呼ぶお酒があることを窺わせます。それでは、清酒とはどんなお酒なのでしょうか。お酒に関する法令の基本は酒税法であり、そこでは日本酒とは「日本の米を原料に日本で醸造された清酒」と規定されており、外国産の清酒を日本酒と名乗ることを禁じています。そして、清酒については「米、米麴、水等を原料に発酵させ漉したもの」と定義されており、この原料に関しては一定割合での醸造用アルコールやブドウ糖、アミノ酸等の添加を認めています。
清酒以外の日本特有の酒としては、どぶろくや合成清酒、味醂等が頭に浮かびます。合成清酒とは、米も含め様々な原料で造ったアルコールに糖類やアミノ酸等を添加して清酒の風味に仕上げたお酒で、清酒とは似て非なるものです。米が貴重だった時代の名残りですが、今も清酒の代用品や料理酒として市販されています。料理に使う味醂も、これをお酒として愛飲する地域もありますが、その風味は清酒とはかなり異なります。
その意味で、清酒に最も近いお酒は白く濁ったどぶろくであろうと思います。どぶろくの造り方は原始的な清酒のそれと同じで、異なるのは発酵した醪(もろみ)を漉していないことです。ちなみに、濁り酒として市販されているお酒がありますが、これは粗い目ではありますが醪を漉すという工程を経ているため、清酒の範疇に入っています。
明治後半に酒造業の免許制度が導入され、一般家庭等でのどぶろく製造は密造酒として取締り対象となりましたが、それ以降も田舎では細々と密造が受け継がれ隠れファンを喜ばせていました。その声に押されて現在では「どぶろく特区」と呼ばれる地域が誕生し、特例的にどぶろくの製造と販売が認められています。
かつて地域振興フォーラムの主催者として岩手県遠野市に出張した時のことです。当時のどぶろく特区には農家民宿で製造し民宿内でしか提供できないという国の規制がありました。最終日の懇親パーティには全国の自治体関係者が参加します。その席で、市長さんが「これを飲まなければ出張報告が書けないでしょう」と大量のどぶろくを振る舞われましたが、その心遣いと悪しき規制を善意で破る肝の太さに感服した次第です。
どぶろくを茶碗で干して郷の唄松川洋酔
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