日本酒のこと (19) 安 原 敬 裕
「酒造好適米」
申し上げるまでもなく日本酒の主原料はお米です。そのお米のなかでも純米酒や吟醸酒等の高品質の酒造りには「酒造好適米」が使用されます。その主なものは山田錦や雄町(おまち) 、美山錦(みやまにしき)、五百万石等であり、皆様も名前は聞いたことがあると思います。この酒造好適米はお酒造り専用として栽培されるものであり、食用のジャポニカ米と比べると「お酒の雑味の原因となるタンパク質が少ない」、「米粒が大きい」、「米の中心部にある心白部分が大きい」等の特徴があります。なお、私も食べたことがありますが、酒造好適米はパサパサして粘り気がなく決して美味しいものではありません。
次にやや専門的になりますが、何故にこれが酒造りに適しているかを説明します。最初の「雑味の原因となるたんぱく質が少ない」ことのメリットは容易に理解できます。次の「米粒が大きい」ことの利点は、お米が砕けることなく高度な精米ができることであり、このため50%、30%の精米歩合が可能となります。三番目の「米の中心部の心白部分が大きい」ことは、お米を糖化する役割を持つ麴菌の増殖(米麴(こめこうじ))や、糖化した米をアルコール発酵する役割を担う酵母菌の増殖( 酒 母(し ゅ ぼ))に大きな力を発揮できることにあります。この点の説明は紙面の関係もあり別の機会に触れたいと思います。加えて、心白部分が多いお米の方が水の溶解性に優れるため、タンクで三段に分けて醪(もろみ)を仕込む際も力強い発酵が期待できるのです。
これらの酒造好適米を名乗るには国の認定が必要であり、現在では約120もの種類があります。先に挙げた山田錦(兵庫等)、雄町(岡山等)、美山錦(長野等)、五百万石(新潟等)等が全国的なブランド米ですが、最近は全国各地で品種改良が進められています。その結果、吟風(北海道)、出羽燦々(山形)、総の舞(千葉)、松山三井(愛媛)等の地域銘柄米が増加しており、ご当地の地酒の魅力向上に大きく貢献しています。
また酒造りにおいては、どの酒造好適米酒米を使用するかで出来上がるお酒の香味が大きく異なります。例えば山田錦は淡麗でシャープ、雄町は膨らみとソフトなまろやかさ、といった特徴があります。そして現在最も人気が高く酒造関係者の垂涎の的となっているのが山田錦、それも兵庫県三木市や加東町等の「特A地区」で生産されるものです。これを使用することで有名な蔵は姫路市の「龍力」、白山市の「菊姫」、焼津市の「磯自慢」等であり、さすがに呑み助の期待を裏切らない美酒を提供しています。
ところが、これら酒造好適米は値段が高いことから原料の全てにこの米を使用するのは一定品質以上の日本酒に限られています。このため日本酒造りで最も使用されるのは一般の食用米であり、全体の75%を占めています。それでも昨今の醸造技術の向上によりどのお酒も美味しく飲めます。勿論、100%酒造好適米使用のお酒は別格ですが。
酒米の旗立ててある代田かな大細正子
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