今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2018年12月号 (会員作品)
忘れ去ることもしあはせ曼珠沙華桑島三枝子
絵蠟燭太く灯して雨月かな平つ満
高稲架や十万石の天守閣太田直樹
開きたる良夜の厨子に和上像吉村征子
赤子の眼月と交信するやうな請地仁
鑑賞の手引き 蟇目良雨
忘れ去ることもしあはせ曼珠沙華
俳句は取り合わせの芸術。曼珠沙華を見て何を感じるかが作者に問われる。あの深紅の色から作者は「忘れ去ることも幸せ」を感じたという。曼珠沙華をめぐる思い出に辛いことがあったに相違ない。「忘れ去ることも幸せ」とは人間の本質を突いた言葉である。
絵蠟燭太く灯して雨月かな
楽しみにしていた望月は見えないことが分かった雨夜に作者は太い絵蝋燭を灯して楽しんだのだ。絵蝋燭を月に捧げる気持ちが心地よい。雨ながら気分の良い月見になったことだろう。
高稲架や十万石の天守閣
十万石の格式の城下町は日本でどのくらいあるのだろうか。作者は青森の人なのでここでは弘前城として句を鑑賞しよう。稲架を高く結ぶことで少しでも米の収穫をおおくしようとする努力が見てとれる。背景に弘前城の天守閣があることで北国の勤勉なる営為が見て取れる。稲架を組むでなく高稲架と措辞したことで深みが増した。
開きたる良夜の厨子に和上像
鑑真和上のおられる唐招提寺での句。十五夜に鑑真和上と共に名月を鑑賞しようと和上像の納められた厨子が開かれたときの景。目しいになられた和上にかつての月光をお見せしようと厨子が開けられた優しさを汲んであげたい。
赤子の眼月と交信するやうな
抱っこした赤ちゃんの眼が月を見ている。その目を作者が覗きこんでいると、赤ちゃんの眼が月と交信しているように見えたというのが句意。まだ無垢な赤ちゃんは本当に月と交信できるのかもしれない。
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