今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2019年7月号 (会員作品)

夏つばめ水田一町かすめ飛ぶ上野直江

囀や窯入れを待つ壺数多日置祥子

高床の柱に裂け目揚雲雀住田うしほ

樟若葉文殊の智慧の降るほどに秋山淳一

二階から津軽じよんから花の宿太田直樹

しやぼん玉消えて雨情を偲びけり鈴木博子

鑑賞の手引 蟇目良雨

夏つばめ水田一町かすめ飛ぶ  
大景を気持ちよく描き切った。水張り田の上を夏つばめがかすめて飛んでいる光景であるが、1町歩の大きな水田の広がり、つばめが水を欲するかのように水面すれすれに飛ぶみずみずしさなど、読後心が洗われる思いのする気持ちのよい句に仕上がった。

囀や窯入れを待つ壺数多   
 さえずる鳥の多さ、焼き入れを待つ壺の多さが一対一の関係を持つかのようである。

高床の柱に裂け目揚雲雀  
 高床から高床式住居や倉庫が連想される。湿地対策、ネズミ対策もあるが或いは権威の象徴でもあったろう。大地に突き立てた柱に走る裂け目は来し方の歴史を見詰めて来たかのように深い。雲雀の声が吸い込まれてゆくようである。近景の柱の裂け目、遠景の揚雲雀の声の二つがうまく組み合わされた。二句一章の句として上々。

樟若葉文殊の智慧の降るほどに 
樟若葉の明るい緑は湧きたつように樹上を彩る。これを見て作者は文殊の智慧を浴びるようだと感じた。或いは若干の落葉が降るのかもしれない。ここにも文殊の智慧は混じっている。

二階から津軽じよんから花の宿  
 私たちは「じょんがら節」と呼ぶ人が多いと思うが、地元青森の作者は「じょんから」と言う。深い理由があるのだろうがそれはさておき、太棹で弾き語りをする津軽じょんから抜きに津軽は語れない。花どきの宿は満員で二階からは盛んに津軽じょんからが聞えてくる。津軽の遅い春はこうして更けてゆくのである。

しやぼん玉消えて雨情を偲びけり 
「しゃぼん玉」の唄は野口雨情の作詞。しゃぼん玉を飛ばしながら唄を歌っている作者。しゃぼん玉が消えるたびに雨情のことを偲んでいる。雨情の唄は今も私達の心を打って止まない。