今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2019年8月号 (会員作品)

百千鳥の好き放題に鳴く杜よ山下善久

竹皮を脱ぐに手間どる齢かな菊井義子

一雨に春蒔き野菜芽吹きけり成澤礼子

洗濯機子らから届く母の日よ広崎和代子

安房の海輝き枇杷の袋掛坂口冨康

小綬鶏の庭に出でよと声しきり正田きみ子

鑑賞の手引 蟇目良雨

百千鳥の好き放題に鳴く杜よ
 小鳥たちに好き放題に鳴かせてくれる場所は小鳥たちにとって楽園のようなものだろう。杜と書かれているから社寺の境内ということになろうか。なるほどここならだれも小鳥たちに悪戯はしないだろう。

竹皮を脱ぐに手間どる齢かな
 これは面白い。竹が皮を脱ぐときの遅さを「竹も高齢になったので皮を脱ぐことに手間取っているのかしら」と見ている独特の切り口が楽しい。自らの齢に重ねる余裕があると思う。

一雨に春蒔き野菜芽吹きけり 
 春雨でなければならないと思うのは、春先のものの芽がぐんぐん成長する力が必要だからである。春撒き野菜の種が一雨あっただけで芽吹いてきたと自然の力に感服しているのである。

洗濯機子らから届く母の日よ
 母の日にこれはまあ大きな贈り物を貰ったものだ。私は機械に強いほうであるが、それでも最近の洗濯機は使い方が難しい。二三度やって慣れたら問題はないのだろうが、たまに借りて動かすと思うように動かない。お子さんたちはそんな機械に弱いお母さんのために使いやすい洗濯機を贈ってくれたのである。昔のドラム式で手回しの絞り機と脱水機が付いた二槽式の洗濯機が懐かしい。

安房の海輝き枇杷の袋掛
 安房の海のきらめきの見える丘の枇杷園の光景。袋掛けをするために脚立に上ると安房の海の輝きが見えるという素晴らしい日和になった。

小綬鶏の庭に出でよと声しきり
 小綬鶏は「ちょっとこい」と聞きなすことが出来る春の鳥。小綬鶏に「庭にちょっと出てごらんなさい」と鳴かれた春先の陽気のよさを一句にしたもの。感じたままを素直に書き留めて成功した句。