今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2020年11月号 (会員作品)

送行や徒にけはしき木の根道杉山洋子

古酒酌みて政治を熱く語りけり菱山郁朗

山里の天井川の出水かな佐々木加代子

禰宜として笛仕る生身魂峯尾雅文

見る阿呆となりて踊の輪に入らず小林美智子

鑑賞の手引 蟇目良雨

送行や徒にけはしき木の根道
 夏安居が済んで寺を下る僧を活写。道らしき道のない山中の木の根の浮き上がった険しい径を徒歩に近い姿で下って行くのを目撃し修業の険しさを慮っている。送行は「そうあん」と読む。

古酒酌みて政治を熱く語りけり
 60年代、70年代は安保改定のこともあり、若者はすぐ天下国家を論じる風があった。今の政治は一見安泰に見えるが底の部分で危うさを秘める。新酒があれば最高だが、古酒でも構わない、政治を熱く語ろうとしている作者の若さに乾杯。

山里の天井川の出水かな
 今年の秋出水は全国で甚大な被害をもたらした。山里を流れる天井川の氾濫は恐ろしかったに違いない。天井川がリアルである。

禰宜として笛仕る生身魂
 生身魂はお飾りのように扱われる場合が多いが、掲句の生身魂は美事なもの。現役の禰宜として神事の席で笛を吹く役目を果たされている。発見の一つである。

見る阿呆となりて踊の輪に入らず
 良く出来た阿波踊りの句。「踊る阿呆、見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損、損」の阿波踊りだが作者は見る阿呆を選択した。