今月の秀句 棚山波朗抄出
「耕人集」2020年6月号 (会員作品)

春の波ささやくごとく寄せにけり青木晴子

山門の名残の雪に下駄の跡菱山郁朗

爺むさしと思ふこの頃彼岸餅中村宍粟

指切りの思ひ出今もつくしんぼ高村洋子

君に似し背にはつとして草矢うつ池田年成

残月の光のかけら初蝶来秋山淳一

花びらを拾ひて一人恋占ひ鈴木博子

鑑賞の手引 蟇目良雨

春の波ささやくごとく寄せにけり
 ささやくように静かに寄せて来る波は春のものだろう。浜辺に寄せる波でもいいし、川端に寄せくる波でもいい。じっと聞いていると眠気がさしてくる春の波であることよ。

山門の名残の雪に下駄の跡
 山門に雪が残っていたのでは報告だ。春になっても残る雪に下駄の跡があり、あれこれ想像出来るところに詩が生まれた。

爺むさしと思ふこの頃彼岸餅
 春の彼岸の牡丹餅を前にして自省しているところ。かつては二つ三つ食べられたものだが今は一つも食べ切れないことを託つとき我が身を「じじむさく」感じたのだ。

指切りの思ひ出今もつくしんぼ
 土筆で遊んだ昔を偲んでいる。指切りげんまんを交わした人達は今どうしているだろう。

君に似し背にはつとして草矢うつ
 「君」は持論恋人だった人。後ろ姿が似ていたので思わず草矢をうってしまった。何時までも恋心は忘れないもの。

残月の光のかけら初蝶来
 朝まだ残っている月面から一欠けらが飛んで来たと思ったら白い初蝶であった。

花びらを拾ひて一人恋占ひ
 花びらを拾って恋占いをするとは何と贅沢に恋をしてきたものよ。