今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2021年12月号 (会員作品)

ワクチンは薬か毒かばつたんこ野村雅子

 ワクチン2回接種率が75%を越えた9月以降、新規感染者数が激減している。 接種率が100%に届かないのは体質によって副作用が激しく現れるので打てない人がいることに起因するので仕方が無い。 接種して安心感を覚えた人は薬と思い、副作用の重さを懼れる人には毒にも思わ れる。ばったんこが効いている句になっ た。

阿夫利嶺に雨雲一朶生姜掘る峯尾雅文
 阿夫利嶺は雨降山とも言って相模平野を見下ろす山祇を祀る信仰のお山。人々は日々山を見上げて生活をするのだが10月を過ぎる頃から根生姜を掘り出しにかかる。一朶の雨雲を添えることにより、湿った空気感が出て、生姜掘りに相応しい畑が想像される。

夕されば籾殻燃やす煙立つ野尻千絵
 脱穀を終えて残った籾殻は焼いて田圃の肥料の足しにする。田に籾殻の山を作りブリキの煙突を差し込んで火を点けるとゆっくりと時間をかけて籾殻は焼けてゆく。煙の立つ田に夕方の安堵感が広がる。

鳴子引く手応へ今も八十路来て春日怜子
 何でも体験したことは体が覚えている。作者は若い頃引いた鳴子縄の感触を80を過ぎた今、再び引いてみてありありと思い出した。ゆっくり引かないと遠くまで伸びている鳴子板は鳴ってくれないことまで。

根の国の母へ文書く夜長かな小林美智子
 夜長は本を読んだり書き物をするのに相応しい候だ。亡くなったお母さんへ書く文はどんな内容か気にかかる。思いをただ思うだけでなく、書いて記録することは大切なことである。後になって自分の思考を確かめるよすがになると思う。

化粧する母の背丸し敬老日平照子
 高齢の母が化粧をするので訝っていると、今日は敬老日で大勢人が集まるので綺麗な姿を見せたいとお化粧をすることに思い至る。それにしても背が丸くなった母だと思う。

鳥兜と知れば紫毒どくし島村若子
 鳥兜は一見りんどうのように見える。綺麗な紫だと感じ入っていると毒草の鳥兜だと教えられて、見方が一変してしまった。素直な驚きの句。

◆その他気になった佳句

思ひ出も仕舞ふリュックや夏終はる岩波幸
涼新た越後村上封切り茶佐々木加代子
毒きのこ誘ふがごとく美しく森戸美惠子