今月の秀句 蟇目良雨抄出
「耕人集」2022年1月号 (会員作品)

一陣の風音立てて榠樝落つ齋藤キミ子

 榠樝の実が落ちて音がする光景はよく目にするが、葉に擦れて音を立てるとか、幹に当たって音を立てるとか、地面に落ちて音を立てるという塩梅である。しかし掲句は風音を立てて落ちるというのだから相当の速力で落ちるのだと思う。崖の上の木から落ちて来たとすれば納得できる。

夕闇に白妙を織る蕎麦の花澤井京

蕎麦の花が夕闇にほの白く見える様子を、白妙の衣を織るようだと譬えている。少しの風が白妙の衣を揺らしているので織っているように見えるのだろう。比喩が優美である。

山の端を今棹になり雁渡る中垣雪枝

 雁が渡る瞬間を見るとき幸せな気分になる。自然の単なる一つの現象を見ただけかもしれないが、偶然を喜ぶ気持ち、さらに言えば一期一会を強く感じるからではないだろうか。普段見馴れた山の端を雁が今飛ぶさまが貴重なものに思えた瞬間だ。

新藁をかへ馬の顔かはりけり鳥羽サチイ

 厩舎の敷藁を新藁にしたら馬の顔つきが変わったと言っている。動物と人との付き合いが深いからこそ見て取れることだ。作者のやさしい人柄が浮かんでくる。

落葉掃く音を頼りに寺を訪ふ今江ツル子

 何軒か並ぶ寺の一つを訪れて行くとき、落葉を掃く音を聞き分けて目的の寺を探し出したというのが句意。特徴的な庭なのだろう。土だけが敷かれた寺とか、砂利が敷き詰められた寺とかあれこれ想像出来て楽しい句だ。

色づきし樹々夕さりのそぞろ寒三間敬子

 紅葉(黄葉?)し始めた木々の夕暮どきにそぞろ寒を強く感じたというののが句意。こう言われてみれば紅葉の始まりは急激な気温の下降が原因。理に適うし、よくぞ表現したと思う。

リモートの応援のなき運動会原精一

 作者はこのコロナ禍をリモートの手段を駆使して生き抜いているのかと推察する。幅広くリモートの技術で仕事ができるのに運動会の応援はリモートでは出来ないことを残念がっている。早く正常な生活に戻りたいと願っていると思う。

群れて去る花鶏の色がまなうらに河村綾子

   小鳥の群が飛び移るのは素早い。花鶏(あとり)も同様で群をなして高速で移動する。枯木に花を咲かせたように止まっていて急に霞のように消え去った。しかし色はまなうらにしっかり記録したという日本画家らしい捉え方。