「俳句文法」入門 (10)          
─ ナ行変格活用について ─             大林明彦 

 語尾がナ行のナニヌネの四音に活用する動詞をナ行変格活用(ナ変)という。死ぬ・往(去)ぬ、の二語のみ。連体形と已然形に注意する。
 死〈な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね〉と活用する。ナ行に活用する四段活用の動詞は他になし。
われ折々死なんと思ふ朧かな夏目漱石
初夢や金も拾はず死にもせず夏目漱石
炎にまぐれてたちまちに死ぬ『方丈記』
いつ死ぬる金魚と知らず美しき高浜虚子
またかく死ぬれば、……   『落窪物語』
鳴きやめてぱた〳〵死ねや秋の蟬渡辺水巴
 口語文法では「死ぬ」はナ行五段活用の動詞。未然形に死のう、が入る。終止形と連体形が死ぬ、已然形と命令形が死ね、と同じ活用である。
 「死す」はサ変の動詞で全く別語である。死〈せ・し・す・する・すれ・せよ〉と活用する。
風死して燃ゆるが如く熱砂かな中村岷
 『愛する時と死する時』という小説があった。共にサ変の連体形。「愛す」は他動詞サ変の動詞。口語文法ではサ行五段活用となる。