「俳句文法」入門 (16)
─ 形容詞について 其のⅢ─ 大林明彦
形容詞シク活用は、「し」までを語幹と考えるとク活用と言えるが、終止形が基本形と同じになり消滅するので「し」以下を語尾として両者を区別する。
形容詞シク活用の例句。各活用形の順に挙げる。
茄子挘(も)ぐは楽しからずや余所(よそ)の妻(未然)星野立子
つつましく屋敷の神も旅立てり(連用)窪田季男
寂聴の法話の愉し小六月(終止)升本榮子
神迎ふ幣あたらしき舞楽殿(連体)古郡瑛子
元日は田ごとの日こそ恋しけれ(已然)松尾芭蕉
実朝忌磯に立つ浪雄々しかれ (命令)詠人しらず
形容詞の未然形「く」「しく」に付く係助詞「は」は仮定条件を表し、「ワ」と発音する。「ば」と濁る事も。「恋しくは来ても見よかし」と『伊勢物語』に。
シク活用の例語には、悪(あ)し・あやし・いみじ・いやし・美し・うれし・同じ・悲し・苦し・久し・よろし・をかし・惜(を)し等がある。じの言い切りに注意。
芭蕉の句「こそ恋しけれ」は係結びの法則を踏まえたもの。強調の係助詞「こそ」に形容詞シク活用の恋しの已然形「恋しけれ」。「好きこそものの上手なれ」も係結び。已然形結びは最強とされる係結び。
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