「俳句文法」入門 (25)
─ 助動詞「たり」について─ 大林明彦
接続助詞「て」にラ変動詞「あり」の約が「たり」。存続(…ている。…てある。)と完了(…た。…てしまう。…てしまった)の意味がある。完了の助動詞「つ」の連用形「て」に「あり」が付いたという説もある。ラ変型の活用〈たら・たり・たり・たる・たれ・たれ〉をし、活用語の連用形に接続する。各活用の例語・例句。
「燕の巣くひたらば告げよ…」「竹取物語」
こぼれ落つ零余子は喜捨としたりけり江藤孜
放る雑魚に争ふ鷗冬来たり竹内岳
天と地を一つにしたる枯蓮柿谷妙子
櫟萌え三日を経たれば丘白し水原秋桜子
春鰯指包丁にひらきたれ詠人しらず
殆ど完了の意だが、柿谷作品は存続の意味が可いか。
て・ありの約の「たり」の他に、と・ありの約の「たり」もあるので覚えよう。格助詞「と」に「あり」の約。断定・指定を表す。活用は形容動詞型の活用〈たら・たり(と)・たり・たる・たれ・たれ〉。必ず体言(名詞)に接続する。臣下として…(「源平盛衰記」)
月凍り星をして星たらしむる山口誓子
一つ買ひし巨林檎手に旅人たり中村草田男
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