「俳句文法」入門 (30)
─ 推量の助動詞「む」について ─ 大林明彦
推量の助動詞「む」(だろう、と訳す)は、そのほかに意志・決意、勧誘・命令、適当・当然、希望・願望、婉曲・仮想、反語の意を表す。今回希望に訳すと凄く良いと思った例句を見つけた。レア物。
明日も見む春めく今日と同じ空寒河江靖子
勿論他にも訳せるが「明日もこんないい空を見たいものだなあ」という心が掲句に濃くある。希望や願望の「む」があることは割合新しく見出したものか。次の例句は意志(に若干決意の要素が付加したもの)である。( むの活用は、○・○・む・む・め・○である。)
踏まぬやう歩かむ雨後の白木蓮坂口富康
子の許へ移り住まむか鳥雲に八木岡博江
いざ摘まむ一期一会の芽山椒鈴木さつき
鈴木俳句は勧誘「摘みましょう」の訳も可となる。軽く命令的に「さあお摘みなさい」も可であろう。
「む」の発音は奈良時代は「ム」と発音。平安時代後期には「ン」と発音し、「ん
」と表記された。
奈良時代には「む」の未然形「ま」の用法があった。「梅の花散らまく惜しみ…」名詞を作る接尾語「く」が付いて「散るだろうことを惜しんで」の意。
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