「俳句文法」入門 (41)
─── 伝聞・推定の助動詞「なり」について ─── 大林明彦
伝聞・推定の助動詞「なり」は耳で聞いた事柄に基づく推定、つまり聴覚的推定です。終止形に接続。
1推定(・・・ヨウダ。ラシイ。ニチガイナイと訳す)
「移りゆく雲に嵐の声すなり・・・」(音がするようだ)
「秋風に初雁ぞ聞こゆなる」(聞こえてくるようだ)
「妻戸をかい放つ音すなり」(音がするようだ)
以上のように擬声語(鳥声など)や擬音語(鐘音など)の次にくる「なり」は推定です。だから子規の、〈柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺〉という句も柔らかい推定と考える方がいい、と七田谷まりうすさんは仰っているのですね。子規の句は、上五と下五は動きませんが中七は色々に表現可能です。〈柿食へば鐘が鳴るかな法隆寺〉〈柿食へば鐘が鳴りたり法隆寺〉など。詠嘆の「かな」では鐘の音がちょっとうるさく柿の実のうまさから感動がそれませんか。やはり伝統的古調の「なり」という調べを使用した方が奥ゆかしく「柿」という季語が生きてくると思います。子規も他のあらゆる表現を捨象してこの「なり」を選択したようです。誰にも出来る凡句に思えますが味覚と聴覚の微妙な交響は見事です。
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